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20.『アマルコルド』少年の人生の四季より去っていった二人の女性

20.『アマルコルド』少年の人生の四季より去っていった二人の女性

-私は、何を思い出す?

(出典)アマルコルド[Blu-ray]Criterion Collection(海外版)

古い作品を取り上げることばかりなので、なるべくDVD化されている作品を選ぶように意識しながらも、今回は残念ながらLDを含めて映像が国内では商品化されていない(筈の)フェデリコ・フェリーニ監督『アマルコルド』です。前回のキム・ギドク監督作品『春夏秋冬そして春』とのロンドは「人生の四季」です。

『アマルコルド』という言葉は、イタリア北部リミニ地方の方言で「私は思い出す」という意味です。この映画は冬が去り春の到来を告げる祭りのシーンから始まり、小舟に分乗し近海をライトアップしながら通行する大型客船を皆で観に行く幻想的な夏の夜のエピソード、高い樹に登って「女が欲しいよ~」と叫びながら小石をぶつけてくる多少頭の弱いおじさんを樹から下ろしてくれる小さな修道女(『道』のジェルソミーナ等フェリーニ作品に出てくる小さな女性は大抵「天使」です)のエピソード、雪の中の孔雀等を四季の風景に交えて描いていきます。また各シーンに添えたニーノ・ロータの音楽は美しい懐かしい響きで私達の心に迫ってきます。

-聞こえないよ~ 天使と尋問と

(出典)甘い生活[DVD]東北新社 2001/06/28

天使と言えば、フェリーニの代表作『甘い生活』では「天使のプロフィールを持つ少女」と劇中で評される美少女が出てきます。主人公のマルチェロ・マストロヤンニは作品半ばでは天使を思わせるその美少女と親しげに会話をしているのですが、ラストシーンではもうその天使の声は聞こえなくなってしまっているというシニカルなエンディングでした。画像添付のアニタ・エグバーク演じる大きい女とのコントラストということも感じられます。

この『アマルコルド』では、ムッソリーニを嫌ってフランスに渡ってきたモンタン一家の父親の思いを感じさせるようなファシスト党時代の雰囲気も描かれています。行進風景や父親が尋問されるシーンもイタリア故かフェリーニ故か、冷徹なゲシュタポの尋問描写などと比べると多少ぬるいようなユーモアも感じますが、実際にこんな弾圧を体感された方々の苦労はさぞや辛かったのだろうと思います。

-何よりもかけがえのない二人の女性との別れ

主人公の少年が人生のメタファーたる四季の中で、かけがえのない二人の女性、最愛のママン(マンミズモ(mammismo)という言葉があるように、イタリア男にとって母親は至高の存在です。リュック・ベッソン監督の名作『グラン・ブルー』のジャン・レノ演じるエンゾとマンマのスパゲッティーのシーンを想い起して下さい。)と憧れの女性グラディスカ、ママンはその死去でグラディスカは彼女の結婚式(風の音が荒涼感を醸し出します)で失ってしまうという哀しい男の物語を、美しい映像とロータの美しい音楽で見事に紡いでいるのです。

―大使館は穴場ギャラリー? イタリア文化会館もお忘れなく…

『アマルコルド』はDVD化こそされてませんが、かっては名画座に頻繁にかかってました。日本ではトリュフォー『アメリカの夜』、ベルイマン『叫びとささやき』(アートラボの方はパークホテルにて成田朱希が金魚と芸者をデザインした客室をご覧になられたことがありませんか?不忍画廊での彼女の個展「叫びとささやき」のタイトルは、ベルイマン映画から引用したと本人が言ってました。泉屋博古館、大倉集古館、智美術館が集中する六本木一丁目界隈のスウェーデン大使館でベルイマン展を観たことがあります。大使館での展示は無料の上、すいていて超穴場と言えます。近くのスペイン大使館でも戸嶋靖昌展をやっていたことがありました。戸嶋についてはこの連載終盤でロンドする可能性があります。)と同じ年に公開されていて、ヨーロッパ巨匠の珠玉の作品群が揃い踏みしていたというもの凄い年だったことに驚きます。10年程前にガエ・アウレンティの設計によって建て替えられる前のイタリア文化会館は裏庭が野良猫の溜り場になっていてイタリアの空間をそのまま切り取ってきたかのような雰囲気があり、古いイタリア映画を無料で上演してくれてました。私も『アマルコルド』も字幕なしで観たことがありましたが、何回も観ていたのでストーリーはほぼ判っていましたし、字幕を見なくて済む分、細かい表情の変化等に気づくことも出来ました。建替時には朱い外装の景観問題が大きな話題となりましたが、日本伝統文化を踏まえた上での色彩選択で、しかも一度は要望を織り込んで変更までしていたのに、時の首相や都知事までが出来上がってからいちゃもんをつけるなんて後出しジャンケンみたいで国際的にも恥ずかしいことだと私は思いました。その新イタリア文化会館でもバブル期を思わせるような豪華なレザー張りの椅子に座って観れる無償映画上演会等がよく開催されています。亡くなる前に若桑みどりのマニエリズモ講演(枕は「カラヴァッジォ研究をするつもりでイタリアに行ったのに、いつのまにかマニエリズモにどっぷりとハマってしまった私」というものでした)を聴けたのは一生の想い出になりました。

次回は「名作なのにどうして映像が市販化されないの~」ロンドでエットーレ・スコラ監督『マカロニ』です。あっモンタンで触れた『パリのめぐり逢い』も市販されてませんでしたね。「ロンド」がかなり錯綜してきました…

この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
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