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21.『マカロニ』プレゼーピオ市から江戸の雛市、初午へと想いを馳せる

21.『マカロニ』プレゼーピオ市から江戸の雛市、初午へと想いを馳せる

-ババが食べたい!

「映像が市販化されていない」というネガティブなロンドで、今回はエットーレ・スコラ監督の『マカロニ』です。公開当時、予告編がやたら面白そうだったので期待満々で観に行ったところ、本編はその期待をも上回る面白い作品で舌を巻いたものでした。異国の旧友に勝手に伝説の英雄に仕立てられてしまった男が現実の世界でも英雄的な活躍をすると書いてしまえば他愛もない話なのですが、名匠スコラの手腕によって実に面白い映画に仕上がっています。

映画はイタリア、カンパーニャ州の州都ナポリが舞台で、主人公のおじさん二人(マルチェロ・マストロヤンニとジャック・レモン)がドルチェのババを頬張るシーンを見たら、やたらババが食べたくなりました。バブル期の東京でしたが、ババを食べることが出来る店を知らず(「イタリア料理」ブームのはしりと言ってもまだ北部が中心で、南部のワインや料理は全くと言っていいほど浸透してませんでした。当時は代官山のリストランテでも、カンパーニャ州の大衆ワイン「ラクリ―マ・クリスティ」を「へえ~「キリストの涙」という名前のワインなんですか~」とか言ってやたら有難がって飲んだものです。)、映画のアフターは、即池袋西武百貨店地下のジェラテリア「ネーベ・デラ・ルーナ」に向かいお気に入りの「マラガ」フレーバーを食べて我慢致しました。

それから何十年も経った昨年、ババ目当てではなく入店した飲食店メニューのドルチェ欄にババが載っていて、やっとありつけた次第です。当時の私は勝手にサバランの蓋のような濃いこってりしとした味をイメージしていたのですが、意外とあっさりとしたものでした。

-エピファニアの夜に聴く曲は

ナポリではプレゼーピオの風習(1/6のエピファニア(示現節)まで、東方の三博士カスパール、メルヒオール、バルタザールが星に導かれて馬小屋で誕生した幼子イエスのところにプレゼントを持ってやってくるシーンを人形で飾りつける風習)が盛んで、この映画の中でもプレゼーピオがよく登場していました。欧州ではこの1/6までがクリスマス期間なので、所謂クリスマスを過ぎても挨拶が「メリー・クリスマス」と「新年おめでとう」にあたる挨拶言葉が半々位に聞かれます。1/6には東方の三博士の贈物にちなんで、子供はプレゼントを貰えるようですが、日本に導入されたらクリスマス、お年玉に続く3連発の出費となり親はたまったもんじゃないですよね…

薔薇の騎士』の作曲家リヒャルト・シュトラウスに『東方の三博士』というオケ伴奏付き歌曲があり、録音されたものでは薔薇の騎士の元帥夫人マルシャリン役を得意としていたエリザベート・シュワルツコップの歌唱に名指揮者ジョージ・セル(大阪万博の時に初来日し名演奏を披露し、帰国後すぐに亡くなっているので、来日公演は伝説となっています。)が伴奏をつけている演奏を毎年エビファニアの夜に聴いています。決定盤とされる『四つの最後の歌』の余白を埋めている録音ですが、その『四つの最後の歌』も『薔薇の騎士』に勝るとも劣らぬ名曲で、特に第三曲『眠り(死を表します)に就く前に』のソロヴァイオリンが登場するシーンは美しさの極みであります。

-夜のプレゼーピオ市に古の江戸の「雛市」を想う

ナポリではケーブルカーを使って訪れる高台のサン・マルティーノ美術館での歴史的プレゼーピオ見学が観光の目玉の一つとなっていますが、年末のローマ、ナヴォーナ広場における夜のプレゼーピオ市も気軽に楽しめるイベントとなっています。東方の三博士、幼子イエス、聖母マリア、やや影の薄い(笑)ヨゼフ、羊飼い、祝福する天使等の人形が様々な素材でカラフルな高級品から素焼きのお手頃なものまで山のように売られているのです。夜の闇の中で煌々と輝く市の活気に飲みこまれていく内に、時空を自在に超えるサン・ジェルマン伯ではないので勿論観たことはないのですが、江戸の「雛市」もきっとこんな雰囲気だったのではなかったのかと勝手な想像を巡らせて楽しんでました。東京オペラシティーのproject Nでこの夏に紹介されていた森洋史作品では「最後の晩餐」、「聖誕」、若冲等がアニメ風キャラに置き換えられていました。女性に変容したキリストと12使途では、ナイフを手に激情する聖ペテロ、独り後輪がなく銀貨を入れた袋を手にするユダ等お約束事はしっかりと守っている「最後の晩餐」と共に、「聖誕」での東方の三博士の贈物の中味は何かな?と興味深々に覘いている牧童の表情に魅せられました。

-「王子の狐」と「初午」と

江戸の年中行事としては「初午」もかなりのイベントだったようです。小栗康平の映画『FOUJITA』のラスト付近に「王子の狐」のエピソードが描かれていましたが(偶には地元王子のPRをと、この連載の終盤で『FOUJITA』へロンドする予定です。)、私は王子に住んでいることもあり「初午」も割と馴染のある祭りです。でも今日では「初午」が言及されることって少ないですよね…一月:正月、二月:初午、三月:雛祭、と様々な江戸絵画や石の森章太郎の傑作時代漫画『佐武と市』等で描かれた「初午」の賑わいは、どうして今日では廃れてしまったのでしょうか?以前、江東区深川江戸資料館で再現されていた「初午」では往時の活気が偲ばれて面白かったのに、やはり民間の稲荷信仰が廃れてしまったことが大きいのでしょうか?

午とは違って狐の方は頑張っているようで、王子稲荷では毎年大晦日の夜に、狐の大行列イベントを行っています。1コイン(500円)でメイクをしてもらえるので、外国人観光客でここのところ急に賑わってきたそうです。近い将来、ヴェネツィアのカーニヴァルみたいに世界中の人間が集まる年越しの観光スポットになるかもしれませんよ…

-食いしん坊オヤジらしいロンドが続く

次回は食べたことのない食べ物というロンドで映画『フライド・グリーン・トマト』です。

この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
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