AE-Salon Webマガジン「alore(アローア)」

23.『バイバイ、ブラックバード』もきっかけは名画座二本立て上映から

23.『バイバイ、ブラックバード』もきっかけは名画座二本立て上映から

-トリックスター、ヘルメス登場?

今回は伊坂幸太郎の小説『バイバイ、ブラックバード』です。

『フライド・グリーン・トマト』とのロンドは、キャシー・ベイツが次第に洗練された美女になっていくのと同様、この小説にでてくるヘルメス(エルメス)のような役割(と思われる別の世界への引率者)の巨漢の猛女が、旬の作家の筆力によりラストのエピソードに向って次第に救いの女神さまのように思えてくるというものです。(因みに容貌は変わりません。小説で良かった?)

-いい歳をこいたオヤジがいそいそと「セーラームーン展」へ向う

通過儀礼のように多くの男性は青少年時代に芥川龍之介と太宰治に嵌るものだとよく言われていますが、若い頃の私は太宰には嵌りませんでした。歳を重ねて、武蔵野市立吉祥寺美術館、三鷹市美術ギャラリー(展示品との距離の近さ、アクリル板無しなのが自宅で眺めているように快適で、ここで出会う作家さんにはいつも大ファンになってしまいます。未だ観ぬ高松明日香展が楽しみです。)、山本有三記念館等の美術館巡りをしながら「風の散歩道」という素敵な名称の散歩道を武蔵野の面影を求めて季節のいい時に散策している内にいつのまにか太宰に関心を持つようになりました。因みに太宰の墓の隣は森鴎外の墓なのですが、遺言により中村不折の筆により森林太郎と刻まれているせいか、森鴎外の墓と気づかぬ太宰の墓参人の荷物置き場になってしまっているようです。

この伊坂作品はそんな太宰の遺作『グッド・バイ』を下敷きに書かれた連作で、主人公の男性の廻りに、色々なタイプの魅惑的な女性がそれぞれのエピソードに1人づつ登場(巨漢の猛女は通して出てきます。)してきます。一番好きな「パン屋」のエピソードにはいつ読んでも泣かされてしまいますが、「セーラームーン」のエピソードにも影響を受け、昨年の初夏に六本木ヒルズで開催された『セーラームーン展』にはわざわざセーラームーン所縁の麻布十番商店街を抜けて年甲斐もなくいそいそと足を運んでしまいました。

-コインロッカーの中の「風に吹かれて」♪

(出典)アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)

伊坂幸太郎とは、名画座での二本立上映会で、別の作品目当のついでに観た『アヒルと鴨のコインロッカー』で衝撃的に出会いました。原作も読んだことがなかったので、真っ白な状態で作品に込められた仕掛けも全く気付かずに最後に仰天しました。映画を観た後に原作を読んでその完成度の更なる高さにほれ込み、伊坂作品を片っ端から読むようになりました。昨年のボブ・ディランのノーベル文学賞の受賞報道では、この映画の中で『風に吹かれて』を閉じ込めたコインロッカーを撫で回しに(それだけが目的ではありませんでしたが)仙台駅まで行ったことを懐かしく思い出してました。

(出典)フィッシュストーリー [DVD] ショウゲート 2009/09/25
『ゴールデンスランバー』映画化の時は大々的な宣伝をしていましたが、映画『フィッシュストーリー』公開日前夜の一般紙夕刊には広告もなく、上映館に電話をして上映時間を尋ねたものでした。『アヒルと鴨のコインロッカー』で謎のブータン人を演じた役者が、この作品でも印象に残る役柄で登場しています。

『フィッシュストーリー』の原作でも映画でもインドとタ部未華子が世界を救うことに大きな約割を果たすしますが、この拙ブログにはハルシャさん、メータさんとインド人アーティストが登場していますし、ゼロの発見の斬新さにすこぶる驚嘆し、週末に『マクベス』の「三人の魔女」よろしくスパイスを調合しながらカレーを煮込んでいる私にとってはインドに対する思い入れは深いものがあります。子供の頃の少年向けテレビドラマや江戸川乱歩の少年もので、悪の権化のように描かれることが多かったインド人(というよりターバンを巻いたシーク教徒)の姿を焼き付けてきた反動からでしょうか?本当はアグラにあるタージ・マハールのシンメトリー崩しなんかについても言及したいところです。(そういえば幅広いアートと謳いながら「建築」には言及出来ていないですね…)

-名画座二本立ての賜物、昔は二本立てがスタンダード

テリー・ギリアムの『未来世紀ブラジル』なんかも名画座二本立てのおかげで、お目当てじゃなかった方の作品に惚れこんでしまったいい例です。(目当てはピーター・ブルックス監督『マルキ・ド・サドの演出によりシャラントン精神病院患者たちによって演じられたジャン・ポール・マラーの迫害と暗殺』でした。今年の損ジャ「ランス展」で展示されていたあのシャルロット・コルデーによるマラー殺害事件と同じ題材を扱っています。)割と最近まで邦画上映って原則二本立てでしたよね。やはり昨年夏場の六本木ヒルズで開催されていた『ジブリ展』を観ていて『火垂の墓』と『となりのトトロ』が当時は二本立て上映だったんだなと思い出しました。(観る順番を考慮した方が良さそうですが…)

次回は「パン屋」のエピソードにもしっかりと登場していた『ターミネーター2』です。二本立てに因んで『ゴッドファーザーPARTⅡ』も併せて取り上げます。『ターミネーター2』は『アヒルと鴨のコインロッカー』を観た時と同様、初代ターミネーターの転向という仕掛けを知らずに鑑賞したので、より楽しめたということもロンドになります。

この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
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