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27.『去年マリエンバートで』/『二十四時間の情事』往年の名画座二本立て常連プログラム

27.『去年マリエンバートで』/『二十四時間の情事』往年の名画座二本立て常連プログラム

―『去年マリエンバートで』の台詞にときめいたことも…

(出典)去年マリエンバートで [DVD] NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン 2016/11/18
アラン・レネ監督映画『去年マリエンバートで』の中で「会ったことがあるよね」と初めて会った女に向かって男が言う印象的な台詞は、公開当時はナンパ常套句として流行ったようです。

パタリロ顔の私は既視感を抱かれやすいせいか、たまに言われることがあります。初めて足を踏み入れた展覧会場でスタッフさんに「内覧会の時もいらしてましたよね」とか…冷静に考えれば、私に限ってありえないことですが、若い頃はこれってもしかしたら『去年マリエンバートで』?と多少ときめいたこともありました。

監督レネつながりと訳の判らぬ難解な台詞、たっぷり睡眠を取ってから観に行かないと爆睡間違いなしという「ロンド」からか、昔はよく名画座でこの作品とセットで上映されていたのが『二十四時間の情事』です。『二十四時間の情事』の原題は「ヒロシマ・モナムール」で、年明けに亡くなった二人、フランス人女優エマニュエル・リヴァと岡田英次(和製ジャン・マレ)の主演する日仏合作映画で、広島を舞台とした戦争の影を引きずる男女のドラマです。エマニュエル・リヴァがこの映画の撮影時に個人的に撮った写真が10年程前に撮影地の広島等で公開され、エマニュエル・リヴァも半世紀ぶりに来日しました。リヴァはジャン・ピエール・メルヴィル監督『モラン神父』ではベルモンドの相手役を演じていました。現在東近美フィルム・センターで特集が組まれているメルヴィルについては来月満を持してロンド致します。

―ミン・ウォン『来年』にて演奏される二本

(出典)二十四時間の情事 HDマスターDVD IVC,Ltd. 2015/05/29

『二十四時間の情事』の方は、この迷訳というか珍訳というかの邦題のせいか、興行的にはこけて初公開時には一週間位で打ち切られてしまったようです。シンガポール・ビエンナーレばりの「サンシャワー展」(新美会場)でのミン・ウォン映像作品『来年』は、この『去年マリエンバートで』と『二十四時間の情事』をベースに作られています。不思議なもので、ベースとなった難解な2作品の素晴らしさ(勿論、名台詞はしっかりと再現されています)が、かなり判り易く感じられました。ところが、会場キャプションにも分厚い図録にも言及されているのは『去年マリエンバートで』ばかりで『二十四時間の情事』への言及は一切ありませんでした。たしかに多くの部分は『去年マリエンバートで』で、タイトルの『来年』も『去年マリエンバートで』に因むものなのでしょうが、もしかしたら『二十四時間の情事』という邦題のせいなのかもしれません。和製ジャン・マレ岡田英次も『来年』のラストのところにしっかりと登場しているというのに…

―訳についての脱線

なもんで、今回の脱線は、以前の『美女と野獣』に引続き『訳や原題について感じていることを中心に綴っていこうと思います。

ナポレオンの名言とされる「予の辞書に不可能はない」の仏語は「不可能はフランス語ではない」というのかと江戸東京博物館でのナポレオン展開催時にショップで売られていたTシャツのプリントで知りました。実に上手く訳したものです。こういう訳こそが本当の訳ということなのでしょう。前世紀の大晦日にニースオペラ座でバレエ『くるみ割り人形』(大晦日でもクリスマス題材が可の理由を知りたい方はここをクリックして下さい)を鑑賞していた際、序曲が終わるといきなり「seulement pour les enfants」(英訳するとonly for the children)という垂れ幕が下りてきて、会場にはくすくす笑いがおきていました。敢えて日本語訳すると「十八歳以上お断り」といった感じでしょうか?

私は語学が苦手で、仏語や伊語を齧ったことがあるといっても、「直設法」どまりで「接続法」や「条件法」についてはよく判りません。要は絵画や映画の原題が辞書を引けば何となく判るかなといったレベルです。

仏語では、韻が意識的に踏まれますので、作品タイトル等にもよく用いられます。例えば、駒井哲郎『魚(ポワソン)または毒(ポワゾン)』は魚POISSONからSを1つ取って毒POISONにというように見事な韻を踏んでいます。『ルパン三世カリオストロの城』に影響を与えたとされるポール・グリモ―監督の映画『王と鳥』の仏語原題はle roi et l’oiseauと綺麗な韻を踏んでいて、邦題も漢字一文字、発音2音と頑張っていますが、何かもう一工夫出来なかったのかなと思うのです。

韻を意識すると、ヴィム・ヴェンダース監督『パリ、テキサス』の邦題も原題のように「パリス、テキサス」として脚韻を踏まないと気持ち悪いような気がします。ヴィットリオ・デ・シーカ監督『昨日・今日・明日』の原題はieri,oggi,domaniで、これは偶然の賜物という要素もあるのかもしれませんが、伊語原題と同様に見事に脚韻を踏んだ邦題となっています。

―キャプションの訳に対する希望

この拙ブログで今まで映画の原題について割としつこく触れてきたのは、そんな背景からでありました。

絵画作品でも美術館によってキャプションの作品名の日本語以外の表記を英語にするか原語にするかは二分化されているようです。私としては、可能であれば、日本語、英語、原語とで紹介してほしいなと思います。英語はインバウンド政策上必須でしょうが、やはり描いた作家がタイトルの言葉に込めた思いが知りたいので、作家本人がつけた原語の表示があると嬉しくなります。姫路市立美術館所蔵のデルヴォーの大作『海は近い』は英語表記「see is near」 だけでは物足りず、デルヴォー自身がどんなタイトルをつけたかが知りたくてたまらないのです。

次回は新美に無碍に袖にされた「岡田英次」のロンドで、安部公房原作小説を映画化した作品『砂の女』です。岡田英次と岸田今日子が主演しています。

この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
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