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29.『怪談』に中村正義、『源平海戦絵巻』五部作にて参上!

29.『怪談』に中村正義、『源平海戦絵巻』五部作にて参上!

―五つの作品が再び揃う日は…

(出典)怪談 [DVD] 東宝 2003/06/21
今回は「文学作品が原作の映画」というロンドで小泉八雲原作に基く小林桂樹監督の映画『怪談』です。この映画作品は原作『怪談』の中の「黒髪」「雪女」「耳なし芳一」「茶碗の中」の四つのエピソードより構成されていますが、中でも「耳なし芳一」のエピソードで壇ノ浦合戦の背景画として使われた中村正義『源平海戦絵巻』5部作の大作は圧巻で、ロケ費用削減目的で地力はあるのに干されていた正義を起用したことにより、下手なロケ映像をいれるよりも遥かに見栄えがする仕上がりになったと思います。今年の盆休みにはテレビ放映がありましたので、ご覧になった方も多いと思います。(昔は盆休期間のテレビ番組は軒並み怪談でしたよね。)

東近美がこの5部作を1974年に買い上げていますが、最近では時折ハイライトコーナーに単品で展示されることがあっても、5部作が揃うことはなかなかありません。数年前の練馬区立美術館開催の「日本画壇の風雲児、中村正義―新たなる全貌」展では全期間に亘って5部作全品を揃って拝むことが出来、その渦巻く炎や波の迫力に文字通りのみこまれてしまった私は何度も通いつめました。

―田中角栄の心配りたるや!

正義は36歳の若さで日展審査員となり「速水御舟の再来」とも言われながらも、師中村岳陵の下を去り、日展を脱退してしまいます。中央画壇から離れたことによる締めつけたるや個展さえも開けないような状況に追い詰められ、雑誌表紙絵としての顔の絵(上記練馬区美展フライヤーに採用された三島由紀夫、堤清二、大平正芳、戸川昌子等)や映画のための作品や舞台緞帳を手がけたりしていました。その反発精神故か、従来の日本画では到底考えられなかったような画材としてボンドや蛍光塗料等も用いてインパクトのある作品を多数残しています。晩年(とはいえ52歳で亡くなってしまいました。)は「从(ひとひと)会」を結成して「从展」や「東京展」の開催に奔走していました。また正義自身写楽研究家として、学者を独特の三白眼で睨みつけながら論破し、フランキー堺と写楽の映画化も計画していましたが、その実現には至りませんでした。後年のフランキー堺による篠田正浩監督『写楽』映画化の実現は正義の遺志を継いだものといえましょう。多才な正義はプレハブ住宅の特許も取得して、田中角栄に売りこんだこともあります。何で目にしたかは忘れてしまいましたが、その時の面談部屋に正義の作品を飾って田中角栄が正義を迎えたというエピソードがあり、角栄は本当に気配りの政治家であったのだなと思いました。

一昨年の生田緑地の川崎市岡本太郎美術館での「岡本太郎と中村正義・東京展」ではマックスで2作品、展示替があったので通算すると3作品の『源平海戦絵巻』が拝めました。訪問前は岡本太郎と中村正義の二人にフォーカスした企画展かなと思っていたのですが、岡本太郎美術館は中村正義を立ててくれたようで、正義を前面に押し出した展示となっていて、正義ファンの私にとってはやたら有難く感じられ、岡本太郎美術館もファンになり時々訪問するようになりました。このブログアップ時には今年10月前半の展覧会は終了していますが、今年と来年の都美開催「東京展」では中村正義作品がご令嬢の「中村正義の美術館」より持ち込まれ展示されます。今年は小品ですが『戦』や『源平海戦絵巻』下図なんかも展示されていました。

―「雪女」はミスキャストかも…という脱線

前述のように映画『怪談』には「雪女」も含まれています。タイトルロールの岸恵子は誰もが認める美女なのでしょうが、この作品に関しては、顔立ちが雪女役にはあまり似合っていない様に私には感じられます。また岸恵子のせいじゃなく原作者小泉八雲のテイストなのでしょうが、巳之吉が雪の夜の惨劇について雪女に語ってしまうのは、雪女がもう巳之吉と別れたくなってきていて、言わせるように仕向けているようにしか見えてこないのです。私が『雪国』での駒子イメージを岸恵子に引きずり過ぎているせいかもしれませんが…

―練馬での衝撃たるや、安売り紳士服量販店でカードが使えない事態に…

中村正義の生まれ故郷愛知県の名古屋市美術館から巡回してきた前述の練馬区立美術館での中村正義展の担当キュレーターは現泉屋博古館東京分館長野地耕一郎氏で、名古屋と比べ練馬ではカオスを狙ったと仰っていました。たしかに練馬での展示は作品を普通の整然とした横並びにはしないで敢えて雑然とした雰囲気を醸し出し、部屋が変わるとあたかも空気が変わったかのようにがらりとテイストを変えていました。何の予備知識もなしに展示室を覘いたら、個展ではなく複数の画家が出展しているグループ展かと感じられたことでしょう。野地館長は山種美術館勤務時代の最後に「瑠爽画社と一采社の画家たち : 現代日本画家の青春群像」展を開催している程なので、中村正義への思い入れが相当強いのだなと思いました。

練馬以来、すっかり中村正義ファンになってしまった私は、後年上野の某百貨店画廊を覘いていて、正義の『色即是空』という6号サイズの仏画を目にしました。崇高な仏画には全く関心のない私でも、額縁にお釈迦様だか観音様だかの漫画が何体も描かれているところに、いかにも正義らしい「遊び心」や「悪戯心」が感じられ無性に欲しくなってしまいました。たとえ正義の一点ものでも、何分6号という小品なので、相当な無理をすれば私にも買えない価格ではなく、最低価格で思い切って入札してしまいました。入札時に画商が「どうか落ちますように」と手を合わせて拝むパフォーマンスを目にし、「しまった~無理をしすぎた~」と遅ればせながら後悔してみたものの、一度入札したらキャンセル不可のシステムで、帰りに慌てて近くの湯島天神に寄って「どうか落ちませんように」と私も手を合わせてきましたが、こんな不謹慎な願いを学問の神様道真公は叶えてくれる筈はなく、無事に?「落ちてしまい」、その金銭的ダメージたるや、安売り紳士服量販店でクレジットカードが限度額オーバーで使えなくなってしまった程でした。

―娘が父の足跡を追いかけるドキュメンタリー映画

(出典)「父をめぐる旅」映画フライヤー 制作「父をめぐる旅」製作委員会  DVD シネマネストJPAPN

名古屋~練馬の巡回展後に『父をめぐる旅』というご中村正義の令嬢倫子さん(前述の「中村正義の美術館」は彼女が正義の住んでいた家を美術館として開館しています)が父の足跡を追いかけるというドキュメンタリー映画が製作されました。(ごくごく僅かな金額ですが私も一個人会員として協賛をさせて戴きましたので、小職の名前も野地耕一郎氏と並んでクレジットに入っております。)この作品は都写美や都美等で上映されることも時々ありますので、良かったらご覧になって下さい。

中村正義が立ち上げた「東京展」と並ぶ「从展」も頑張って今日まで継続されていて、「从展」は例年3月上旬に都美にて開催されています が、来年は桜の季節に合わせ3月下旬に開催予定とのこと、出展作家さんの話を伺うイヴェントを桜の咲く街歩きとセットで開催してみようかなとも思っています。

―モジリアーニとジャンヌの物語

次回は画家を主人公とした映画「ロンド」でジェラール・フィリップとアヌーク・エーメがモジリアーニとジャンヌを演じたジャック・ベッケル監督『モンパルナスの灯』です。中村正義「男と女」シリーズのロンドで、やはりアヌーク・エーメの『男と女』という選択肢もあったのですが、全体の構成を考慮しつつ、『男と女』はその次とさせて戴きます。

この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
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