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31.『男と女』のいつか言ってみたかった台詞…

31.『男と女』のいつか言ってみたかった台詞…

―演じる歌い手ピエール・バルー

(出展)男と女 製作50周年記念 デジタル・リマスター版 [Blu-ray]Happinet 2017/05/02
若き天才クロード・ルルーシュ監督が、フランシス・レイを音楽に起用し、ジャン・ルイ・トランティニヤンとアヌーク・エーメを主演にした映画『男と女』です。昨年は製作50周年記念デジタル・リマスター版が公開されたせいか、歌手ピエール・バルーの露出がやけに多いなと思っていたら、不思議なもので年明け早々に彼は亡くなってしまいました。彼とニコール・クロワジールとのデュエットによるこの映画『男と女』のテーマは誰もが一度は必ず聴いたことがある超有名曲です。バルーは役者としても登場し、エーメの夫で事故死するスタントン役を演じています。バルーはテーマが流れるシーンでは顔を出しませんが、生前の夫の想い出のシーンとして「サンバ讃歌」を歌う見せ場なんかもしっかりあります。この映画の台詞、カメラ、色彩、音楽のどれをとっても半世紀前の作品とは到底思えぬような洗練さを感じさせられます。ルルーシュもレイも役者としてのバルーもこの作品を契機に地位を確立しました。

―それから二十年後

O.ヘンリー(子供の頃に読んだ、赤塚不二夫がチャップリン長編映画やO.ヘンリーの小説をアレンジして、イヤミやデカパン等が演じる漫画は原作よりも感動的だったかも…)『二十年後』を意識した訳ではないと思いますが、『男と女Ⅱ』(原題:男と女、20年後)という続編も、ルルーシュが本当に20年後のジャン・ルイ・トランティニヤンとアヌーク・エーメを起用して作っています。残念ながらピエール・バルーは出演していません。『男と女』でのバルーは前述のようにエーメの亡くなった夫役でしたから、出演させるとしたら老けていてはいけなかったからでしょう。前回『モンパルナスの灯』の最後に少なくとも『男と女』のラストでは幸せそうに見えるエーメと綴りましたが、この『男と女Ⅱ』を観ると、あれから二人は別れていたことを知ることになります。貼付ましたDVDジャケット画像でお判りのように、20年経ってエーメの美しさが更に増していることには驚きます。

(出展)男と女 II [DVD] ワーナー・ホーム・ビデオ 2005/08/05

―火事場で「レンブラントの絵」と「猫」のジャコメッティの選択

『男と女』の中には、アートファンの方にとってはあまりにもお馴染の、こんな台詞が出てきます。ドーヴィルの海岸を歩く老人と犬の後ろ姿を観て「ジャコメッティのようだ」とつぶやく男。そして続ける。「ジャコメッティはこんなことを言っている。火事になって、レンブラントの絵と猫のどちらかを選ぶことになったらレンブラントよりも猫を救うと。」女「知ってるわ。そして後で逃がしてやるよね。」

三年前の新美『チューリッヒ美術館展』では1部屋がスイス出身のジャコメッティの間になっていて嬉しかったのですが、今年の夏の新美のジャコメッティ展は本格的で思いっきり楽しめました。しかも山田五郎のトークショーまでありましたので、会社を休んで聴きにいった程です。この企画展では、弟のディエゴをモデルとした肖像画や彫刻も展示されていて、ジャコメッティ兄弟展の趣もありました。猫と言えば、白金台の松岡美術館の一階では、そのディエゴ・ジャコメッティーによる愛らしい立体作品『猫の給仕頭』がいつも鑑賞者を出迎えてくれていて人気者になっています。彼の人気ぶりは鑑賞者による所蔵作品人気投票でも一番となっていることから窺えます。

―極めつけの名台詞

『男と女』の終盤、男と女が食事をとっているホテルのギャルソンに追加注文として男が言う台詞に「部屋を一つ」という名台詞があります。テレビ放映時の吹替版に刷り込まれていたせいか、ゆっくりとした口調でトランティニアンが気取って”Et une chamber”とか言っているのだろうと長年思い込んでいましたが、早口であっさりと”Vous avez une chamber?”と言っていたんですね。どちらにしても、人生一度位はこんな台詞を口にしてみたいものだと思いつつ、言えぬままこんな年齢になってしまいました。

名台詞と言えば、脚本家中薗ミホもこの作品が大好きのようで、昨年は冒頭で綴りましたように映画の販促目的もあったのかテレビ等でもよく語っていました。彼女は子供の時に母親に連れられてこの映画を観た時から鮮烈なインパクトを受けて、相当刷りこまれているようです。

―仏映画の王道、トライアングルラブにロンド

次回は歌手が役者として演じるの逆ロンドで、「役者(アラン・ドロン)が歌う」でロベール・アンリコ監督の『冒険者たち』です。

『モンパルナスの灯』で画商役を演じたリノ・ヴァンチュラも出演していて、実にいい味を出しています。何しろ、あのジョアンナ・シムカスからドロンよりも愛されるという男を演じているのですから。

この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
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