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32.『冒険者たち』の許に訪れた束の間の幸せ、それはレティシア

32.『冒険者たち』の許に訪れた束の間の幸せ、それはレティシア

-シムカス(幸せ)の代表作

今回は、ロベール・アンリコ監督の映画『冒険者たち』です。アラン・ドロン、リノ・ヴァンチュラ、ジョアンナ・シムカス、セルジュ・レジアニ等が出演しています。

初公開時に、映画に流れる美しいテーマ音楽に歌詞をつけてアラン・ドロンが甘い声で歌ってました。流石に劇中での歌唱はなく、日本市場あたりを狙っての録音だったのかもしれません。たしか我が家にもドーナッツ盤がありました。(と6月位に草稿を書いていたら、夏場にこのドロンの歌唱を含む『冒険者たち』と次回にロンドする『サムライ』のカップリングで格安サントラCDが発売されました。長生きはしてみるものです。)

(出典)冒険者たち DVD アミューズソフトエンタテインメント
発売日 2011/12/09

ジョアンナ・シムカス演じるレティシアという名の芽の出ない女性前衛芸術家が、飛行機乗りのドロンとスポーツカー・エンジンの開発にあけくれるヴァンチュラのもとにやってくるところから、この映画は始まります。

「レティシア」という仏語っぽくない名前の持つ意味は、「幸せ」だそうです。(そういえばナポレオン・ボナパルドの母親の名前もレテツィアでしたね) 夢を忘れないでいる男達にところに、たとえ束の間ではあっても、「幸せ」が訪ねてきてくれたのだということを意味しているのでしょうか?「束の間」と表現したのは、レティシアは不幸な事件に巻き込まれ、映画中盤で亡くなってしまうからです。

-今回は「全ての道はローマに通じる」という広大な?脱線

セルジュ・レジアニはマックス・オフュールス監督による映画『輪舞』の最初のロンドである娼婦(イブ・モンタン夫人となったシモーヌ・シニョレ)と若い兵士間でのラヴの相手役兵士を演じたことがありますとモンタンの回で綴りました。私が最初にパリを訪れた時に真っ先にfnacに向かい買い求めたのはレジアニがジャック・プレヴェールの詩集『パロール』の中から「宙に投げられし笏」を朗読しているLPでした。

この詩は千行を超える大作で、冒頭、パリ、サン・ラザール駅の傍のローマ通りにいた夜警と司祭が別々の道を通ってローマに向かいます。(なぜなら全ての道はローマに通じているからです。ワイン好きの方はイタリア、フリウリ州の「ヴィエ・ディ・ロマンス」を味わったことがあおりでしょう。ネーミングが単数形のvia(道)ではなく、複数形のvieになっているのは「全ての道はローマ(ロマンス)に通じている」に因んでいるからだと私は思います。)

そのローマではコンクラーベの最中で、ムッソリーニも登場してきます。終盤のスペイン内線のメタファーたる「傷ついた小鳥」を鳥かごに入れてぶらさげている猫の「その歌声があまりにも美しかったので、僕は食べることが出来なかったんだ」とのつぶやきには心を打たれます。

(出典)「ことばたち」 ぴあ  2004/09

私の学生時代に出ていた『パロール』抄訳からは「宙に投げられし笏」はオミットされていて長年邦訳は出でいませんでしたが、今世紀になってからジブリの高畑勲がこの『パロール』の全訳を『ことばたち』として出版しました。今般、我がゴミ屋敷の中から『ことばたち』が発掘出来なかったので、記憶頼みの記述で誤っているところがあるやもしれませんが、東大仏文出身の高畑訳は生真面目な正確な訳であったと感じていました。ただし地続きの欧州を一国だけの知識で語るには高い壁があるようで、”avanti”を仏人夜警が覚えたばかりの伊語としていましたが、”Aavanti!”はファシストになる前のムッソリーニが編集長を務めていたこともある社会党の機関紙名でもあるので、「赤旗を振れ」というようなニュアンスになるのではないかと私は思っています。確かに現代でも初めてローマを訪れた日本人観光客が信号機の緑(avanti 進め)と赤(alt 止まれ)を見て、真っ先に覚える伊語の一つには違いないのでしょうが…

-コンゴ動乱から半世紀以上が過ぎ…

いつもながらの脱線が長くなりましたが、このセルジュ・レジアニが演じているのは海底に沈んだ財宝探しのトリガーとなるコンゴ動乱時の元パイロット役です。この財宝探しの最中に、レティシアは撃たれて命を落としてしまうのです。

大抵の日本人は、女性ヒロインたるレティシアは当然ドロンの方に惹かれるだろうと思うのでしょうが、レティシアはヴァンチュラの方に惹かれていきます。よく言われるように、フランスではジャン・ギャバン、リノ・ヴァンチュラ、ジャン・ポール・ベルモンド、ジェラール・ドパルデューといったような味のある顔立ちの男達がうけるのでしょうか?(私もいっそのことフランスに移民しようかしらん…)

次回はオーソドックスに「ドロン映画」というロンドで、この『冒険者たち』の恋ではヴァンチュラに負けてしまったアラン・ドロンが最高にカッコいいジャン・ピエール・メルヴィル監督のフィルム・ノワール大傑作映画『サムライ』です。ドロン映画で一本だけと言われたら、私は迷いなくこれを挙げます。

 

この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
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