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33.ル・サムライの孤独は密林の中の虎のごとし

33.ル・サムライの孤独は密林の中の虎のごとし

-サムライの孤独を汗だくで探し回る

今回はジャン・ピエール・メルヴィル監督の『サムライ』(原題 le samourai ouは映画「foujita」がfujitaと表記されるとフュジタという音になるのと同様です )を取り上げます。メルヴィルの生誕100年の今年は9月から東近美フィルム・センターとアンスティテュートフランセで特集が組まれていて、昔はアテネ・フランセなんかでひっそりと上映されていただけなのにと隔世の感を覚えます。タイトルは「武士道の本に寄ると」に始まる映画冒頭でのメルヴィルの言葉です。フランソワ・ド・ルーベによるこの映画につけられた音楽は実に雰囲気のあるもので、今年再発売されたサントラCD(それもアラン・ドロンの歌唱まで入った『冒険者たち』と二戸一で、たったの1,000円!)の在庫はすぐになくなり、夏場に汗だくで探し回りやっと入手出来ました。

フ ィルム・センターの展示で北野武が尊敬する監督の一人としてメルヴィルを挙げていると紹介されていました。私見ですが、「キタノブルー」にはこの『サムライ』のカラーの影響があるのかもしれません。

メルヴィルはゴダール監督の『勝手にしやがれ』ではエロティックについて語る大作家役で俳優として出演しています。つまり若きヌーヴェルバーグの旗手達からも尊敬の念を集めていた訳です。アラン・ドロンは今年5月に二回目の引退宣言をし、この映画とは関係ありませんが、三番目の恋人だったミレーユ・ダルクが8月に亡くなってしまい、「時の流れ」をしみじみと感じています。

―フランス語が判ったと勘違い出来る静謐な作品

台詞が極端に少なくサイレント映画のように感じる部分も多々あります。私がアテネ・フランセでの英語字幕版上映でも楽しめたのは何度もテレビ等で観ていてストーリーを隅々まで知っていたことが大きかったのでしょうが、何よりも台詞の少なさによるものだったと思います。

(出展)サムライ [Blu-ray]KADOKAWA / 角川書店 2016/05/27
中折れ帽とトレンチコート姿でシトローエンを乗り回し仕事をこなしていく殺し屋ジェフをドロンが演じています。ジェフが仕事前に鏡の前に立ち中折れ帽の縁をなでて決める姿を私達に見せつけるシーンの美しさは男性が見ても惚れ惚れとします。路上に停めてある他人のシトローエンに勝手に乗り込み、大きな目でフロントガラスから正面をみつめたまま、合鍵の束の中から1つづつ鍵を合わせていくシーンなんかもたまりません。そのシトローエンのナンバーを取り変える換えるシーンも、行きつけの闇交換屋でその主との会話もなく淡々と行われていくのです。

(出展)いぬ [DVD] アイ・ヴィ・シー
 2003/03/25
メインテーマにのりパリのメトロを乗り継いで追手をまくシーンなども、同じルートでトレンチコート姿でメトロを乗り回してみようかなと若い頃は本気で思った程のカッコ良さです。台詞が少ないためか、ジェフと唯一暮らしを共にする相手である鳥かごの中の小鳥のさえずりも印象に残ります。(40年ほど前で記憶違いかもしれませんが、ロベール・アンリコ監督、ジャン・ポール・ベルモンド主演『オー』のテレビ放映時には、このサムライのテーマ音楽が流れていたような… ライセンスの縛りが甘かった時代にはこんなことも許されていたのでしょうか? 『ビック・ガン』のテレビ放映時にオルネラ・ヴァノーニの名曲『逢引き』が流れていて、これもテレビが勝手に付けたのかと思い込んでいたら、ドロンがヴァノーニのファンで『高校教師』と共に実際に映画で彼女の曲を使用していたようです。)ベルモンドと言えば同じメルヴィル監督の『いぬ』がありますが、冒頭で触れましたフィルム・センターの展示では『いぬ』のベルモンドをさらに磨き込んだ究極の姿が『サムライ』のドロンであると紹介されていました。

-市ヶ谷での「静聴せよ!」時の三島の脳裏には…

三島由紀夫はドロン演じるジェフのナルシスティックな美に熱狂し、メルヴィルの研ぎ澄まされた演出を強く肯定していたそうです。(「個人が組織を倒す道徳《サムライ》について」映画芸術1968年5月号)まさか自分を「ル・サムライ」になぞらえて市ヶ谷に向かったのではないでしょうが、三島とル・サムライの最期はかぶるところがあるような気もします。もしかしたら「静聴せよ!」と叫びながら、ル・サムライの映像が三島の脳裏には流れていたのかもしれません。脱線ですが、三島夫人は杉山寧の長女で、三島の「芸術家の娘だから芸術家に変な幻想を抱いていないのがよい」との思いから結婚に至ったそうです。(秋の東近美「東山魁夷展」での日展三山揃い踏みには圧倒されました。東近美コレクションのラインナップは流石です!)

-意外?と誠のある男ドロン

(出典)太陽がいっぱい [DVD] パイオニアLDC 2002/10/25
こうした役がやたら似合うせいか、どうしてもクールだというイメージを受けがちなアラン・ドロンです。しかし、誰もがどうせ長続きはしまいと思っていた三番目の恋人ミレーユ・ダルクとの仲も長く続き、最近まで(前述のように今年8月の終わりにミレーユ・ダルクは亡くなってしまいました…)仲良く一緒に舞台に立っていたところなど温かい心の持ち主の男性なのでしょう。因みに二番目の女性、当時の妻のナタリー・ドロンはこの映画で女優デビューをしましたが、それが原因で離婚となってしまいました。

最初の恋人、婚約者ロミー・シュナイダーをドロンの出世作ルネ・クレマン監督『太陽がいっぱい』で夜のローマを歩く「いい女」役でカメオ出演させたり、大巨匠ルキノ・ヴィスコンに紹介したりしています。婚約を解消してからも、困っているロミーに対して何度も共演の相手役に指名したりと、温かい手を差し伸べていたそうです。メキシコでのトロッキー暗殺を描いた『暗殺者のメロディー』もそんな二人の共演映画ですが、史実としてメキシコでトロッキーを支援したのはかのディエゴ・リベラとフリーダ・カーロです。

次回は『夕なぎ』の回でロミーについては後程たっぷりと申し上げていた、そのロミー・シュナイダーについてです。

この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
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