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35.『ベニスに死す』世界を席巻したシロッコならぬタッジォ旋風

35.『ベニスに死す』世界を席巻したシロッコならぬタッジォ旋風

-またヴェネーツィア?いったい何回目?

ヴェネーツィアを取り上げるのはこれで何回目でしょうか?『リトル・ロマンス』『ホフマン物語』『そして私はベニスに生まれ』等々… 懲りずに今回もヴェネーツィア、リド島を舞台としたトマス・マンによる原作小説『ヴェネーツィアに死す』をルキノ・ヴィスコンティが映画化した作品『ベニスに死す』です。イントロにも書きましたように、今年の欧州は「惑星直列」といわれるアートフェスのラッシュ状態!お世話になっているギャラリストさん達も交替でヴェネーツィアに飛んだようで、まことに羨ましい限りでした。

(出典)ベニスに死す [DVD]  ワーナー・ホーム・ビデオ  2004/04/23
原作ではたしかベニスに列車を使ってメストレから入るのは宮殿に入る際に裏口から入るようなものだというようなことが書かれていたと記憶しています。表玄関たる海から本島に入るシーンから始まるこの映画は、グスタフ・マーラー作曲『交響曲第5番』の第4楽章「アダジェット」のハープを主体とした耽美的な旋律と、誰が見てもマーラーがモデルとしか思えぬ作曲家アッシェンバッハ先生が惹かれる超美少年タッジォで当時やたら話題となりました。(一昨年秋の東近美『京都 再演』でもタッジォを起用していた作品が出展されていました。つまり1970年にタッジォはアート作品となっていたのです。そのタッジォ様の織り込みがついている初公開時のブログラム記事よると、映画プロモーションで来日したタッジォは製菓メーカーCМなんかにも出演していたようです。東近美のアート作品も多分その時に制作されたのでしょう。) 昨年私めが開催致しました「ヴィスコンティの愛した美しき男達の夕べ」でも、ご参加各位がワインを嗜まれながら交わす会話の主役はやはりタッジォ様でした。

 -区立美術館の raison d’etre ここにあり

一昨年板橋区美にて「種村季弘の眼 迷宮の美術家たち」という展覧会が開催されました。こんなコアな展覧会をやってくれるのは、私が思うに板橋区美か渋谷区松濤美(今年は、「今様、クエイ兄弟、三沢厚彦」と年間を通じて白井建築を活かして弾けまくってました)位で、区立美術館の存在意義というものを大変有難く感じ入りました。区立美術館と言えば、秋に練馬区美にて開催されていた「麻田浩展 静謐なる楽園の廃墟」は東博「運慶展」と並ぶこの秋の超目玉展だったと個人的には思っています。緑色の毒性については古来より言われていますが、麻田画伯の独特の緑色には私もすっかり中毒になってしまいました…

私が若い頃に青土社より出版されていたその種村季弘のラビリントス叢書には、薔薇十字やパラケルスス等当時の私好みのテーマが満載でしたが、中でも「悪魔礼拝」の刊には、マンの原作やヴィスコンティ映画『ベニスに死す』がしっかりと取り上げられていて、映画では悪魔が3回出てくるという記述がありました。

-ダペルトットは「いたる所に」の意

「悪魔ダペルトット」はいたるところにいるものだとオッフェンバックのオペラ『ホフマン物語』の回にて私は言及しましたが、種村季弘によると『ベニスに死す』でも、悪魔が姿かたちを変えて少なくとも三回も登場してくると考察しています。これは今読んでも非常に興味深い考察だと思いますので、ご関心を持たれた方は是非ご一読下さい。現在は河出文庫より出ています。

―悪魔に魅入られて訪れる世界

ベニスに死す (集英社文庫)
(出典)ベニスに死す (集英社文庫)

映画の中で、シロッコから逃れるため去らなければならない筈だったベニスから離れることが出来なくなった(つまりタッジォとまた会える訳です)時のアッシェンバッハ先生のやたら嬉しそうな顔(全般的に暗いトーンの画面はこの時だけやけに明るくなります)を見ると、なるほどアッシェンバッハ先生はもう悪魔に魅入られてしまっているのだなとしか思えなくなります。

タッジォはおそらくはヘルメスの化身であり、アッシェンバッハ先生を死の世界へ誘い込んで、顔面に髪の毛を染めていた染料を汚く垂らしながら意識が薄らいでいくアッシェンバッハ先生の訪れを歓迎しているかのように、彼方を指差しながら美しい身体のラインを(アッシェンバッハ先生とそして私達に)見せつけてくれるのです。

―次回へのロンドはマーラーの調べに乗って

(出典)マーラー [DVD]ハピネット・ピクチャーズ 2003/11/27

次回は「マーラー」ロンドでマーラー『交響曲第6番』が効果的に使用されているケン・ラッセル監督『マーラー』にしようかなと最初は思いました。この映画ではヴィスコンティ映画のアッシェンバッハ先生がタッジォと出会う有名なシーンも明確に引用していますし、美術ファンにはお馴染のマーラー夫人たるかのアルマ(作曲もした絶世の美女で、グロピウスやココシュカとのロマンスが有名です。東近美常設ではココシュカのアルマの肖像画が、ほぼいつでも掛っています。)がたっぷりと描かれているのです。

しかし、そろそろ「ロンド」のフィナーレに向けて、やはりマーラー作曲の『交響曲第4番』の第1楽章が美しく使われている佐々木昭一郎のテレビドラマ『四季ユートピアノ』につなげることと致します。

この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
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