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36.『四季・ユートピアノ』映像の詩人佐々木昭一郎による川の連作「リバーズ」

36.『四季・ユートピアノ』映像の詩人佐々木昭一郎による川の連作「リバーズ」

-映像の詩人、佐々木昭一郎の世界にどっぷりと浸かっていた日々

今回は「映像の詩人」と呼ばれる佐々木昭一郎がNHKドラマとして制作した『四季・ユートピアノ』です。

このドキュメンタリー風のドラマに流れる美しい映像・音楽・台詞には何度見ても心洗われ、国際的な賞の数々を受賞しています。この作品『四季・ユートピアノ』ではピアノをモチーフに調律師となったヒロイン栄子が体験する美しい音や温かい心の人々との出会いと別れが描かれ、つげ義春作品からの印象的な引用シーンもあります。(佐々木昭一郎はつげ義春『紅い花』の映像化もしています。)

海耕馬という言葉はないのでしょうが、海辺で働く馬は私の体型のように不格好なのですが、グスタフ・マーラー第四交響曲第一楽章の夢見るような戦慄に乗って登場すると、レイトンや川端龍子の作品に描かれる神馬のような姿にさえ見えてきます。栄子が生まれ故郷を離れるときに駅に見送りに来てくれた祖父母との別れのシーンでも、この曲が線路の映像にかぶさり、カメラの美しさが際立ちます。

同じヒロイン中尾幸世を起用したこの作品に続くリバーズと呼ばれる連作(川のあるところに人は集まり、出会い、そして別れる)は、今日のドキュメンタリー風海外滞在もののモデルとなりました。ヒロイン栄子はA子、EIKO等と舞台となる街の言語にそぐうようにその名を変形させながら美しい音色を紡ぎ続けていきました。実現はしませんでしたが、学生時代に搭乗したエア・フランスで読んだ機内誌ではオルガンをモチーフとしたセーヌ川編のプロットが紹介されていました。

A子を気取って「Ωの形をしたアーレ川を見にベルン(文化村でのネーベルやクレーへの言及はどなたかがきっとやって下さることでしょう)へ行ってきます」なんていう年賀状をNHKに出したら、佐々木昭一郎ご本人から丁寧な返信を戴いたこともありました。今ならインターネット検索で一発で判明するのでしょうが、グラナダ編で引用されている詩はヒメネスであろうと国会図書館等で探しまくったのですが見つからず、NHKに電話したら「ちょうど佐々木がおりますので」とご本人につないでくれました。佐々木昭一郎のお人柄もさることながら、牧歌的な時代だったんですね…

若い頃にこの作品と出会えたことは本当に幸せだったと思います。佐々木昭一郎作品(特にリバーズの連作)を愛している同世代の方々と話をしていると、その深い愛着ぶりがしみじみと感じられます。奥様とこの拙ブログを毎回読んでくださっている会社の同僚が、佐々木昭一郎を取り上げるならと「創るということ」1982年刊オリジナル版をプレゼントして下さいました。有難いことです。

-クレモーナのヴァイオリン、グラナダのギターラの美しい音楽に乗せて…

(出典)創るということ 青土社  増補新版 2014/9/22

モチーフとなる既製音楽もポー川沿いのクレモーナ編『川の流れはヴァイオリンの音』ではヴァイオリンによるクライスラー『美しきロスマリン』やヴィヴァルディ『四季』より「冬」のラルゴ、グアダキピール川沿いのグラナダ編『アンダルシアの虹』ではギターによるロドリーゴ『ある貴紳のための幻想曲』と美しい音楽を美しい映像と共に私達の耳と眼に焼き付けてくれるのです。それぞれがオリジナル曲と思える程マッチしていて、以後その曲を聴くと佐々木作品の映像が真っ先に浮かんでくるようになりました。劇場映画作品『ミンヨン倍音の法則』ではモーツァルト『ピアノ協奏曲22番』を効果的に使っていました。(この映画の公開時のNHKによる特番では、岩波ホールでインタビューに答える私のでかい顔と腹がしっかりと映っていました。)この映像を中心とした拙ブログでも音楽にかなり触れているのは少なからず影響を受けているのかもしれません。

リバーズ連作では敢えて「美しいもの」しか描かなかったと佐々木昭一郎が自ら語っていましたが、『アンダルシアの虹』では引用した原作の設定を変えています。エピソードの元となったヒメネス『プラテーロと私』の「パン屋」(これは伊坂幸太郎のロンドではありません)のエピソードの原作では、貧しい子供がひもじくて「パンをおくれよ~(ウン ポキート デ パン)」と叫ぶのですが、佐々木作品『アンダルシアの虹』の中では、歌の好きなパン屋が歌を歌うことに夢中になったためにパンを売り忘れたという設定に変形され、「パンをおくれよ~」と叫ぶパンを買いに来た子供の手にはしっかりとお金(旧ペセタ札)が握りしめられているのです。

この『アンダルシアの虹』を観た、かのジャンヌ・モローが「昭一郎の作品になら出演してもいい」と言ってくれたと佐々木昭一郎が嬉しそうに語っていたことがありました。

『アンダルシアの虹』はロマの家族とグラナダでひと夏を過ごすヒロインの物語で、秋の気配の訪れと共にヒロインは去っていきます。ジプシー(西語ヒターン)、グラナダ、ギターラ、グアダキピール川とGの頭韻でつなげているのです。ジプシーという言葉はどうして使用禁止になってしまったのでしょうか?セヴィージャのタパスでクーベリックに似た顔立ちのアメリカ人観光客をチラ見していたら目があってしまい、一緒にシェリー酒を飲みながらジプシーの起源はエジプトかインドかと議論した懐かしい想い出があります。

-グラナダと言えば戸嶋靖昌にも触れなくてはなりません

日本では、画家は中央画壇にいないと名が売れない傾向にありますが、グラナダを制作拠点としていた戸嶋靖昌の作品からは鴨居怜を思わせるような凄味が漂ってきます。初夏にセルバンテス文化センターで展覧会が開催され、初見でしたが心を奪われました。麹町1丁目の法人内に戸嶋靖昌記念館があり、無料で見学できますが事前予約が必要です。アカデミーのスクーリング等で四ツ谷にいらっしゃる際に覘いてみる価値はあると思いますし、ご希望があれば少人数のグループでツアーを組んでもいいかもと思っています。

-佐々木昭一郎の後継者は

海街diaryDVDスタンダード・エディション
(出典)海街diary[DVD] ポニー・キャニオン 2015.12.16
前述のNHK特番では佐藤忠男が佐々木昭一郎の後継者として是枝裕和の名前を挙げていました。私も是枝監督は大好きですが、『海街diary』を観た時は、なるほど作品から溢れ出る瑞々しさ、懐かしさは、佐々木昭一郎の後継者筆頭に挙げられて当然だなとしみじみと思いました。

次回は「川」での「出会いと別れ」というロンドで小栗康平監督の映画作品『泥の河』です。

この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
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