
―今をときめく吉田鋼太郎!
ポスト蜷川としても今を時めく役者吉田鋼太郎は、朝ドラやシェークスピア役者としての側面から語られることが多いようですが、私はテレビなら『東京センチメンタル』、舞台ならば『MIDSUMMER CAROL ガマ王子VSザリガニ魔人』を代表作として挙げたいと思います。
前者は老舗和菓子店を経営する職人を演じる吉田鋼太郎が毎回異なる出演女優に叶わぬ恋心を抱きながら東京の下町を中心に案内するというシリーズものでした。高畑充希がその和菓子店アルバイト学生役としてレギュラー出演していて、私も含め多くの視聴者が最後には吉田鋼太郎と高畑充希とが結ばれることを秘かに期待していたのではないかと思います。
まずは根岸の街から歩き始める二人
―あそこに「豆富」っていう看板がありますけど、「豆腐」の間違いですよね?
―忌み言葉「死」の音を含むから「塩」を「波の華」と言い変えたように、この豆富料理「笹乃雪」では食べ物に「腐」はないなと避け「富」を使っているんだ。かって羽二重団子、雷おこしと並ぶ下町三大名物と言われていた豆富尽くしのコースを食べることが出来る。そうそう羽二重団子もここから日暮里駅方面に向かったすぐ近くのところにある。寄ってお団子を食べていくか?
―自分の店を休みにして遊んでいて、商売敵のお店を宣伝してどうするんですか?
続いて「子規庵」、「書道博物館」の前に到着
―こんなホテル街の真っ只中に連れてくるなんて、下心が見え見えですよ!
―書道博物館スタッフもなんでこんなところに建てたのかとお客様からよく怒らますとこぼしていたけど、もともと正岡子規や中村不折が住んでいたエリアに、後からホテル街が出来たものなんだ。
―正岡子規の名前は聞いたことがありますけど、中村不折ってどんな人だったんですか?
―正岡子規等と日清戦争に従軍して清に渡った画家で、清に辿り着いたら戦争が終わってしまっていたけど、折角だからと清を巡っていたら「書」の魅力に引き込まれ、自分の絵を売ってまで「書」の一大コレクションを築いた男なんだ。書家としても「新宿中村屋」の看板や森鴎外の墓碑なんかを遺している。その鴎外の墓には遺言により森鴎外ではなく森林太郎と刻まれているせいか、森鴎外の墓とは気付かれないで、太宰治の桜桃忌の際などには無造作に荷物置き場にされてしまっているんだ。
「谷中霊園」傍らの「パティシエ イナムラショウゾウ」前にて
―警備員のオジさんが立ってますけど、店内に高い美術品でも展示されているんですか?
―店内が混雑しない様に入場人数を制限しているんだ。ケーキの味もさることながら、サービスの徹底ぶりも有名で、自転車で来店されたお客様には買物中にタイヤの空気を充填し、帰りに楽なように向きも直す程の徹底ぶりだ。
―少しは見習った方がいいんじゃないんですか?お見送りさえしない時もありますよね…
裏道に入り「旧平櫛田中邸」前へ
―随分と古めかしい家ですね。
―平櫛田中が藝大で木彫を指導していた頃に住んでいた家で、見学者に床の拭き掃除をさせるなんていうイベントもあるみたいだ。
―私あれは駄目です!腰にきちゃうんです… 藝大で教えていたとうことは、田中さんはよっぽど上手い彫刻家だったんですか?
―単に似ているというだけじゃなく、モデルの精神性や生き様までも感じとれるような作品が数多く残っている。ちょっと遠いけど、ここに住んでいた後に引っ越したアトリエ兼住居が小平にあって、美術館として公開されているから今度一緒に行くかい?
―次につなげようとしても、その手には乗りませんよ!もっと近くで田中さんの作品を観れるところはないんですか?
―国立劇場のロビーにある尾上菊五郎をモデルとした『鏡獅子』は平櫛田中の代表作とされている。武原はんをモデルにした女性の踊る姿の木彫なんかも計画していて、小平には百歳を過ぎてからも用意していた材料木が残されている。
―百歳を過ぎてからって、田中さんはそんなに長生きをしたんですか?
―「六十、七十は鼻たれ小僧、男ざかりは百から百から」なんていう名言も残していて、百七歳で亡くなっている。そう言えば、藝大で「平櫛田中コレクション」関連の展示を今やっているんじゃなかったかな?
―すぐ近くにあるじゃないですか!後で独りで観に行きますから、ついてこないで下さいね。
やがて「カヤバ珈琲」の前を通り過ぎ、「スカイ・ザ・バスハウス」へ
―行列が出来てますね!
―レトロ感溢れる喫茶店内の雰囲気に惹かれるのか、週末はいつでもこんな混み具合だ。この先の「上野桜木あたり」では「カヤバベーカリー」としてパンの販売もしている。
―これが画廊ですか?随分変わった造りですね。
―元は銭湯だった建物なんだ。だから入口に下足入れがあって、天井が高く、自然光も射し込む造りになっている。リ・ウーファンの蛍光色作品が展示されているのを観た時は、やけにはまっている感じがしたよ。
遂にヒマラヤ杉まで辿り着く二人
―お店にヒマラヤ杉が食い込んでしまっている感じですね。
―元は昔から店先にあった小さな鉢植だったのが、90年余りの歳月を経てこんな巨木になってしまったんだ。人間と自然のスケール感の違いをひしひしと感じさせられるね。
―見ているとなんだか不思議な懐かしさを感じてしまいます。
―昔は小さな庭でもヒマラヤ杉が植えてある家屋が多く、よく見られた光景だから、古い映像や写真なんかで見たことがあって、既視感を覚えるのかもしれないね。
―すぐ先に雰囲気のある素敵な画廊がありますね。琳派かなんかですか?
―アラン・ウエストさんという加山又造の下で日本画を学んだアメリカ人が、ここにあった自動車整備工場を買い取り、自らのアトリエ兼画廊として時間をかけてこんな風に生まれ変わらせたんだ。この空間だけでもアートと言えるね。今の新幹線車内誌でアラン・ウエストさんのインタビュー記事が読めるよ。
ちゃっかり宣伝と独りごとを…
二人の会話はまだまだ続きますが、あまり長すぎても…とここでひとまず終わりに致します。続きにご関心のある方には、こんなイベントもありますので。「八月の谷中で出会う猫と幽霊画」
この番外編は厚かましくもイベント販促用としてしたためさせて戴きましたが、拙ブログは18回:東京ゴッドファーザーズ (真夏に語るクリスマスの奇跡) 20回:フェリーニのアマルコルド (「私は思い出す」という少年時代の回想もの)を予定していますので、19回にこの番外編が「ロンド」としてパズルのピースのようにぴたりと?嵌ります。19回は韓国のたけし、鬼才キム・ギドクの予定でしたが、これを番外編ではなく19回としてしまおうかとも、連日の酷暑の中、「汗だく」で思案中です。