

薄い幕を三角に切り取って、昼と夜のあわいを覗いたような風景。
このイラストをファーストシングルCDのジャケットに起用したのは、福島県を中心に活動するバンドグループ・indischord。
その透明感あるボーカルの歌声に非常にマッチした世界観が、デジタルイラストで表現されている。
このイラストを描いているのは、ミュージックビデオのアニメーションやグッズデザインなども手掛ける新進作家のrakiさん。
デジタルツールを使って現代の若者の心象風景ともいえるイラストを描くrakiさんに話を聞いた。
raki
1995年生まれ。千葉県出身。
19歳から独学でイラストを描き始める。
ミュージックビデオのイラストや、CDジャケット、様々なグッズデザインなどを手掛けている。
ホームページ https://taiki0550.wixsite.com/mysite
絵を描く感覚で景色を見つめる

ありふれた景色のようだが、積み重なるようにして立つ建物、
架線と噛み合わない高架(?)など、よく見るとちょっと不思議な世界。
こちらに背を向ける青年の瞳にはどんな世界が映っているのだろうか。
「普段から絵を描く感覚で景色を見ている」と言うrakiさん。
rakiさんは目にした風景を、どのように作品に落とし込んでいるのだろうか。
ーーー実在する風景を組み合わせて画面を作っていきます。写真を5枚撮って、それを組み合わせて風景を作っていったり。地元の千葉の実在する街並みを、作品の中にポイントで入れることもあります。
描き始めるときにイメージは決まってるけど、描きながら、これがあったら面白いかな、ここに人がいたらカッコいいかな、とかって入れていきます。情報量が多い絵が好きなんです。
rakiさんが思うデジタルでの作品制作の良いところを伺った。
ーーーデジタルのいいところは、Webですぐに見た人の反応がわかること。手軽に様々な彩色を施したり 、アナログのようなタッチも再現できたり、アニメーションにして動かしたりすることもできます。
アナログは実物を展示して初めて展示と言えると思うのですが、アナログの「展示空間をひっくるめて作品」というところには興味があります。デジタルの映像に音と匂いをつけたり、五感を使って味わうような作品が作れないかなとか、思いつくことは色々あります。
病室で描いたデッサン

オリジナル作品。電話ボックスの灯りを中心に広がる世界に物語を想像してしまう。
絵を描くことに興味を持ったきっかけはなんだったのだろうか。
ーーー小学生の時に、兄の影響で描いたのがきっかけです。兄は絵が上手で、よく賞をとっていました。それを見て横で真似して描くようになりました。
サッカーに夢中になるようになってからは絵を描かなくなりましたが、ある時体調を崩してしまって。良くなったり悪くなったりの繰り返しで、中学3年生の時にスポーツを続けることを諦めざるを得なくなりました。
入退院を繰り返していたので、身体的環境に左右されないでできることを探しているうちに、ノートにシャープペンで絵を描くようになって。病室の窓から見える自動車や、当時ガラケーで画像を見ながら馬とか好きなものを描いていました。その時たくさん描いたデッサンが今のベースになっているのかもしれません。
体調が落ち着いたのち、進学した大学ではインテリアやプロダクトのデザインを学んでいたというrakiさん。デザインの道からイラストレーターの道へ入るきっかけを伺った。
ーーー19歳の時、デザイン・フェスティバルで画集を出品している人に出会ったんです。その画集が本当にすごくて。こんな風に絵が描きたい、自分も絵を描くことを仕事にしたいと思いました。
すぐにパソコンを買ってもらって、中古のペンタブを探して、デジタルでイラストを描いている知人に使い方を教えてもらいながら描き始めました。
あの時、デザフェスに行っていたからオリジナルのイラストを描くようになったけど、コミケに行っていたら今頃違う絵を描いていたかもしれません。
rakiさんのイラストを見ていると、新海誠監督の作品を思い出す。
影響は受けているのだろうか。
ーーー新海誠監督の映画は大好きです。あの世界観には影響を受けていると思います。
『えんとつ町のプペル』の風景画を描いている六七質(ムナシチ)さんも当時から好きで、影響を受けているかもしれません。
ほとんど独学で描いているので、好きな作家さんの作品を見て勉強しています。
描いてみたいのは、全く存在しない風景
最後に、どんな作品作りを目指しているのか伺った。
ーーー全く存在しない風景を描いてみたいです。誰も見たことがないような景色を描いてみたい。
僕はただ理想の絵が描きたいだけという気持ちが強くて、恐縮ですが実はあまり仕事を引き受けていないことも多いんです。
自分の理想に届かないものを見せてしまう悔しい気持ちがあるんです。仕事ではもちろんその時の 全力で制作をしていきますが、未熟でまだまだ表現できていない理想が自分の中にはあって、もっと時間や経験や技術すべてをかけてメッセージや世界を表現していきたい。この辺のことってクリエイターはみんな悩んでると思うんですよね。応援してくださる方々のためにも理想を追求し続けていきたいです。

youtubeを中心に活躍するシンガーソングライター・こき『奇跡の法則』のミュージックビデオに起用

youtubeで人気のシンガー・春茶のミュージックビデオに起用


作家の目を借りてみる景色
rakiさんという作家のフィルターを通して見る景色は幻想的で美しい。
しかし、よく見ると見慣れたような景色も散りばめられ、眺めているうちに日常への愛しさをも喚起させられる、不思議な魅力がある。
これからどんな風景を私たちに見せてくれるか、期待が膨らむ。
インターネット上にあげられたデジタルイラストは、スマホで簡単に見ることができ、複製も容易である分、「一点モノ」という希少価値がつかないため気楽に消費されてしまう傾向にある。そうした態度は安易に著作権を害する要因にもなってしまうだろう。
しかし、希少価値やモノとして残るかどうかがアートの価値の全てではないはずだ。
美しいrakiさんのイラストをみながら、アートの価値について、作家の守られるべき権利について、今一度考えなくてはと思った。