AE-Salon Webマガジン「alore(アローア)」

最後の挨拶…輪舞の終結(ロンドのクロージング)

最後の挨拶…輪舞の終結(ロンドのクロージング)

先ずは御礼を申し上げます

半永久的に続くのかと勝手に思い込んでいた本aloreも残念ながら今回で最終回とのことで、三年間に亘りど素人の拙文を目にした下さった方々に対する感謝の念を込めて「最後の挨拶」として綴らさせて戴きます。当初は身近なアートである「映画」を中心にA.シュニッツラーを気取った「ロンド」形式で一年間分50回程で終わらせるつもりで全体の構成を組み立て、意図的に「脱線」という形で、映画以外の美術、文学、音楽、演劇、舞踏、紀行、料理、歴史等々の幅広いジャンルにも「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」感覚で拡げていきましたが、最近はイベント販促や後記、自分自身の「旅の想い出」等、かなり自己中な方向にぶれてきていました。

私自身のalore活用法

各回テーマの「映画」「オペラ」「文学」等々を鑑賞し直したことで、それまではボーとしていて気づかなかった発見が思いのほか多かったというのは大収穫でした。『リトル・ロマンス』のポスターに仕込まれた仕掛けや『真夜中のカーボーイ』のキャンベル・スープや聖クリストフォロスのペンダントが伏線になっているなんてことは、aloreに取り上げていなかったら気づかずにいたかもしれません。

執筆期間中に取り上げた作品の主演女優が亡くなったり(古い映画中心だったので仕方がないことです)、原美術館の閉館が決まったりと淋しいこともありましたが、初公開時の決して若くはない『男と女』というコピーが記憶に残っている作品が52年後に同一監督、俳優陣によって製作されたり、「どうして出ないんだ~」と嘆いていた『フェリーニのアマルコルド』のDVDがやっと発売される等の嬉しいこともあり、三年間にあれやこれやいろんなことがあったなと「時の流れ」を改めて感じています。

『ぼくの伯父さん』(ジャン・ルイ・バローが演じた白い男バティスト役の最初の候補はジャック・タチだったのですから(『天井桟敷の人々』からロンドしてもよかったかも)、『田園に死す』、『黄金の馬車』(監督ジャン・ルノワールはオーギュストの次男です)、『ミッション』、『魔王』、デヴィット・リーン、アンドレイ・タルコフスキー等をロンドに入れられなかったのは残念でしたが、aloreをご覧戴いた若い頃の上司から「大好きな『天井桟敷の人々』にこんな切り口があったなんて」というお便りを戴いたこともありました。

展覧会関連では安部公房『壁』に触れたすぐ後に、普段はなかなか展示されない「世紀」の盟友たる桂川寛の『壁』に関する作品群(「捕らぬ狸」等)を東近美常設コーナーで観れたことはラッキーでした。極めつけは、もう一生観ることはないかもと思っていた中村正義『源平海戦五部作』が揃って展示中だとの情報を中村正義のご令嬢⇒木村東介所縁の不忍画廊⇒私というルートで知らされた時には、予定を変更して急遽東近美に飛んでいきました。短い展示期間でしたが何度も通い詰め、若い女性や外国人の観客までもが食い入るように見つめている姿を眺めては、この作品群があたかも自分のものであるかのような感動を覚えました。その時は随分前に綴った当該aloreの閲覧数がやたら増えてきて、「何が起きている?」と思いましたが、この作品群を観た方々が検索をされていたのかと納得致しました。

イベント打合せ目的でギャラリーや美術館等を訪問する際は、自己紹介を兼ねて相手が関心を抱いてくれそうな回をプリントアウトして持参したものでしたが、その「読み」が当たってメールで感想を戴いたり、ご自身のサイトからのリンクを貼って下さった時などは大変嬉しかったです。

「タヌキ型ロボット」シリーズとなる筈が…

訪問後に綴るつもりでいたブルターニュとノルマンディーへの訪問記は、薔薇の季節のアンリ・ル・シダネル所縁のジェルブロワとジャンヌ・ダルク(昨夏の「オクシタニア」の反省から佐藤賢一『傭兵ピエール』や竹下節子の関連本を読みふけっていたり、「百年戦争」もののゲームを最初からやり直したりしています。)終焉の地ルーアンが中心となる予定でした。ジェルブロワは、第二次世界大戦前にこの地を気に入って移住してきた画家アンリ・ル・シダネルが発した”この村を薔薇で溢れさせましょう”との呼掛けに村人達が応えた結果、今日では「フランスの最も美しい村」の一つとして大人気の美しい薔薇の村に変貌しました。

このエピソードに出くわす度、私は子供の頃に観た虫プロのテレビアニメ『アンデルセン物語』中の「絵のある広場」(少年と売れない画家が一晩で街の広場に美しい絵を描きまくる)をいつも思い浮かべています。一晩ではなく長い時間をかけて村を美しく変貌させるというアンリ・ル・シダネルの村人を巻き込んだトリガーは、彼の絵画作品(も勿論素晴らしく、かっての損保ジャパン美術館での個展でほれ込んで以来、DIC川村や富士美で再会するとやたら嬉しくなります)以上に素敵なアートであり、後年の二コラ・ブリオー『関係性の美学』を先取りしたものと言えるのかもしれません。

いよいよ輪舞(ロンド)のクロージング

未熟者の私にとって松本竣介ワールドは深すぎて、『天井桟敷の人々』からの「静謐」ロンドたる竣介で中断されたままとなっていましたが、律儀な日本人と致しましては(笑)やはり最後のロンドでクローズをしなくてはなりません。私が竣介を知ったのは高校生位の時で、竣介展を紹介する雑誌の名文に引かれて展覧会に行ったところ、それまで知らないでいたのが恥ずかしくなるような感動に打ちのめされました。昨秋、桐生の大川美術館でご子息監修による「竣介の再現アトリエ」を傑作の数々と共に目にしたのですが、終活中の現在でもやはりハードルが高すぎるなと諦め、初回と二回目を繋ぐロンドとなった田中泯に再登場願うことでロンドのクロージングにしたいと思います。(これは田中泯のハードルが低いという意味では決してなく、むしろ心より崇拝しています。)

alore初回で渡辺省亭を広く紹介した画廊と記した加島美術(二重のロンドでクロージングと致します!)が、この3月、神楽坂の地に新しい取り組みとしてコンテンポラリーアートを扱うギャラリー「√K Contemporary」をオープンさせました。こけら落としは「もの派」の大御所原口典之展で、廃油が敷き詰められた代表作「オイルプール」で田中泯が躍るイベントも複数回開催されるとのことです。昔(愛しの金久美子が生きていた頃)の新宿梁山泊芝居を最前列で観る時は、水避け用に観客にビニールシートが毎回渡されたものでした(笑)。果たして田中泯が乗ってくるとどんな状況になるのか怖いような気もする一方、ジャージ姿で臨んで廃油を振りかけられたいような気も致します。(ドエムか?)

新規オープンまもない√K Contemporaryを仕事が終わってから地図を頼りに目指した(アカデミーから徒歩で行けます)ところ、住宅地だからなのか暗い夜だったからなのか、住所表示が見あたらず辿り着くには多少苦労をしました。別の日の昼間に、添付写真を撮りがてら改めて再訪したところ、やはり住所表示は少なく、稀にあっても看板等で巧みに隠されたりしていて、街全体で雰囲気作りをしているような感じが致しました。「建築散歩」なんかではお馴染みなのでしょうが、お金持ち屋敷の定番、スパニッシュ様式の邸宅も見つかりました。

近隣にはミヅマアートギャラリー(日本橋三越での「数寄景」展は最高に面白かったです。会田誠、山口晃、天明屋尚のクリーンナップを出し惜しみしてもこの凄さ!層の厚さをつくづくと思い知らされます。)、アンスティチュ・フランセ東京、DNPプラザ等のアートスポットが沢山あります。ツアーを組めとのご要望がございましたら、引きこもり直前の秋口まではアカデミーの隣の隣のビルで働いていますので、中尾部長か川内さんにでもお声掛け戴ければ、連絡を取り合って私がご案内させて戴きます。AEとしてではなく、個人として「最後の一花」モードでご案内致しますので、お気軽にお申しつけ下さい。(勿論「お一人様」でも大歓迎です。)

最後に珍しく時勢に触れてみたり致します

本aloreの中では、自分からも言及しましたようにヴェネーツィアに関して数多く綴ってまいりましたが、新型コロナウィルス騒ぎは、会期中のヴェネーツィアのカーニバルが中止されたことで、ヴェネーツィア贔屓の私はその深刻さを思い知らされました。行きたいと思っていた展覧会が軒並み休館となり、仕方なく手間のかかる料理でもと鍋を煮込みながらテレビをつけていたら、NHK名曲アルバムでG.マーラーの「アダジェット」が流れました。その映像は、無人のヴェネツィア本島やリド島のシーンが多く、偶然だったのでしょうが出来すぎだろうと思いました。不謹慎な記述になってしまうかもしれませんが、前述「オクシタニア」を巡るアルビ十字軍の戦いにしろ、そもそもヴェネーツィアのカーニバルでお馴染みの「ペスト医の仮面」にしろ、或いはポーの「赤き死の仮面」(これは架空の病ですが、多くの絵画や音楽にインスピレーションを与えました)等、長い人類の歴史には伝染病の影がつきまとっていた訳です。改めて命や健康に対する感謝の念をより強く意識しなくてはいけない時なのかもしれません。「アート」と触れ合うことは、まさにそんな刺激や癒しにもなるのではないかと思うのです。

長年のご愛読、誠に有難うございました。重ねて御礼申し上げます。    A  Dieu

この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
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