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10.『王様のレストラン』、『三番テーブルの客』とは、また別の話

10.『王様のレストラン』、『三番テーブルの客』とは、また別の話

-蘇る「伝説のギャルソン」第一話は『黄瀬川の陣』から

「ギャルソン」をロンドとしての今回の『王様のレストラン』は、『振り返れば奴がいる』に続いて東京サンシャインボーイズ時代の三谷幸喜がCX系列ゴールデンタイム枠テレビドラマに脚本提供し始めた1990年代半ばの作品です。両作品とも舞台の上ではなかなか表現しにくい「手術」と「料理」をテレビ媒体で活かすことを狙ったのではないかと思います。逆に舞台を意識してのことだと思うのですが、テレビドラマ『王様のレストラン』は全編レストラン内だけで物語が完結するという脚本に仕上がっています。松本幸四郎が演じる主人公「伝説のギャルソン」千石やしずかをはじめ、源氏の武者達や彼らに係る女性の名前を役名としたレストラン・スタッフ達のドラマであり、昨年、東近美で開催された安田 靫彦展で『黄瀬川の陣』(頼朝と義経の出会いの場面)を目にした時はこの『王様のレストラン』第一話での西村雅彦(最近改名したようですが、放映時の芸名を使います)と筒井道隆の腹違い兄弟の再会シーンを真っ先に思い浮かべてしまいました。

(出典)王様のレストラン Blu-ray BOX / ポニーキャニオン / 2015/01/21

-私は小野武彦演じる梶原でしょうか?

放映当時から評価が高いこの作品では第一話でのエピソードが巧みな伏線として最終話までつながっていく様が実に見事ですが、観ている私達にとって多くの登場人物の誰かに感情移入しやすいことも大きな魅力になっているのだと思います。

天才シェフしずかの才能も”素晴らしい”(伝説のギャルソンの口癖)接客をするギャルソン千石の才能も無いしがない接客係梶原(梶原景時に由来しています。前田青邨『洞窟の頼朝』や山口晃『洞穴の頼朝』の緊迫感を作っているのは、画中には出てこない当初は平家方として石橋山の戦いに敗れた頼朝一派を探索中の景時なのです!)を演じる小野武彦に自分が重なります。スポーツ新聞のエッチ記事を切り抜いてはこまめにスクラップして、そのネタを得意げに吹聴したり、趣味は拙い素人手品という梶原役の設定は、展覧会や映画のフライヤーをポケットホルダーにしこたま溜込んでは独りにこにこしながら眺め、こうして知っていることやたわいもない昔話を得意げに綴っている今の私の姿そのものではないかとと胸にぐさりと突き刺ささってくるものがあります。

-「一夜だけの支配人」にもスポットライトがあたる夜

中盤に「一夜だけの支配人」という梶原にスポットライトが当たった回がありました。(回によって主要な登場人物それぞれにスポット当てて、いい見せ場を作っています。)別れた妻子の前で、今はこの店の支配人をやっているだと梶原が嘘をつき、他のスタッフ達からもサポートを受けて見栄をはり続けるという内容で、このエピソードは後に独立して『三番テーブルの客』という共通の短編シナリオを毎回異なる演出家と俳優が演じ分けるというCX系列深夜枠の連続番組となりました。

最近の三谷脚本では昨年の大河ドラマ『真田丸』が大評判になりましたが、私としてはその『真田丸』最終回の直前回で、主要な役者それぞれに印象的な見せ場を立て続けに提供していたところに、いかにも三谷脚本らしい心地よさを感じていました。

-源氏だらけの世界に一人の仏蘭西人が皿を割る

舞台となるレストラン名は “la belle equipe” (「素晴らしき仲間」の意味、ジュリアン・デビュビエ監督、ジャン・ギャバン主演の映画『我等の仲間』の原題です)で、その外観は代官山の一軒家レストラン『マダム・トキ』を使用しています。フランス人が皿を割ってばかりいる皿洗いデビュビエ役を演じていました。

-各テーマ音楽がフランス語に訳されたCDメニュー

料理番組や料理シーンは勿論のこと、様々な番組・場面のBGMに実によく使われているこのドラマの各シーンを盛り上げる音楽は三谷幸喜との名コンビの作曲家服部隆之が書いています。結婚式なんかでもよく使われているみたいです。CDでは各曲名がフランス語に訳されていて、フランス料理店メニューのようなイメージを醸し出しています。因みにこのドラマのエンディング曲はブレーク前の平井堅が歌っていて、三谷幸喜は、全てが奇跡的に旨くいったドラマだったのに、この時の平井堅の歌が当たらなかったことだけが申し訳なかったと語っています。

-次回は源氏の世界からマリア・テレジア時代の維納へワープします

次回は「感情移入」というロンドで、川端龍子『源義経(ジンギスカン)』よろしく大陸を目指して海を渡って、重厚なリヒャルト・シュトラウスの楽劇大作『薔薇の騎士』にバトンを渡しに行きます。果たしてちゃんと辿り着けますでしょうか?

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この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
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