AE-Salon Webマガジン「alore(アローア)」

14.『五つの銅貨』♪most important of allはこの作品そのものかも?

14.『五つの銅貨』♪most important of allはこの作品そのものかも?

-予告通りにメータさん再登場!

今回はグレン・ミラーをロンドとして、ダニー・ケイ主演の音楽映画『五つの銅貨』です。ダニー・ケイと言えば、彼の名をオマージュとして芸名に取り入れた谷啓も既に亡く、随分過去の人というイメージになってしまいました。ユニセフの親善大使も献身的に務め、歳を取ってもその芸達者ぶりを見せつけてくれました。日本にもお忍びで施設の慰問等にきてくれていたみたいです。この映画には病院でリハビリに励む子供たちを慰問するシーンがありますが、実際にこんな感じだったのではないかと想像がつきます。『ダニー・ケイ、ニューヨーク・フィルを振る』という映像での絶妙のパフォーマンスをテレビ放映で観たことがありますが、オケメンバー本人若しくは関係者等の了解が必要なためでしょうか、DVD化されていないのです。LD化はされていて、以前、秋葉原で中古LD(未開封!)を見かけたことがありました。結構高かったので購入を見送ってしまいましたが、今にして思えば、どうして買わなかったのかと後悔しています。(といっても再生出来ませんが、持っているだけでも満足かも…)因みに影の指揮者としてダニー・ケイ(楽譜が読めないと本人が語っています)の陰からオケをドライブしていたのは、かのズビン・メータです。メータさんの名誉のために、当時の彼はニューヨーク・フィル常任指揮者だったからで、イベントだから引っ張りだされた訳ではありませんということを強調しておきます。

-媒体を越えて継承される感動

前置きが随分長くなってしまいましたが、昔テレビで『五つの銅貨』を何の予備知識も無く目にした私は、すっかりこの作品の虜になってしまいました。それからはサントラLP、VHSソフト、LDソフト、DVDソフトと関連商品を見かけたら必ず購入しています。私同様、この作品のファン、それもかなり深く愛しているコアなファンはかなり多いのではないかと思います。私は有名な記録映画『真夏の夜のジャズ』も観たことがない程ジャズが判らないのですが、出てくる楽曲は主題歌『五つの銅貨』の他、誰もが耳にしたことのある『聖者の行進』や『リパブリック讃歌』等聴きやすい懐かしい曲ばかりなので理屈なく楽しめます。

-また三重唱なの?

(出典)五つの銅貨[DVD] パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン  2012/11/09
この映画は、コルネット奏者レッド・ニコルズの生涯を描いている作品で、「ロンド」のグレン・ミラーも若き日に彼の楽団の一員であったという役柄で登場します。芸達者なダニー・ケイの名人芸がたっぷりと楽しめる上、サッチモ(ルイ・アームストロング)も本人役で独特の魅力あるだみ声やトランペット演奏をたっぷり披露してくれ、クラシックの楽聖達(この映画が作られた頃は著作権の関係もあり今ほどメジャーじゃなかったグスタフ・マーラーまでも聖者の一員に! マーラーはこのブログでも今後しばしば登場することになると思います。)がオンパレードの『聖者の行進』ではダニー・ケイとサッチモの最高の掛け合いが満喫出来ます。この二人にニコルズの幼い娘ドロシーが加わり三人が別々の歌を同じコードで歌う三重唱もやたら楽しく、自分は三重唱がつくづく好きなオヤジだったんだなと今回再認識致しました。(これがブログデビューした一番の効果?『薔薇の騎士』『トリスタンとイゾルデ』の回参照) 随分前に放映されていた タモリの「今夜は最高!」でも、この作品の複数のナンバーが魅惑的に再現されたことがありました。勿論この楽しい三重唱シーンは含まれていて、たしか目玉だったような記憶もしています。

-涙、涙のエンディング

至福の音楽映画としてだけではなく、家族愛や音楽家同志の深い友情を温かく描いたハート・ウォーミングムービーとしても優れたこの映画の終盤は感動的なシーン、台詞が立て続けで、何回観ても、またこうしてただ思い出しているだけでも涙が滲み出てくる程です。ノーマン・ロックウェル作品をそのまま映画にしたらこんな感じでしょうか?ノスタルジックな古き良きアメリカといった世界感にどっぷりと浸かれます。

-DVDで見直して気づいたことをいくつか

今回画像添付のDVDを見直していて、ダニー・ケイ演じるレッド・ニコルズが一時期ある事情から音楽を離れ造船所で働いているシーンで川端龍子の『海洋を制するもの』を思い起こしていました。この作品では造船工が炎に包まれた不動明王のように、いかにも龍子らしい迫力万点の力強い姿で描かれていますが、1930年代は日本を含む主要国が戦艦造成に力を入れていた時代だったのです。この映画の中でも「戦争」という言葉が造船所の場面で出てきます。映画の最初の方では禁酒法施行の時代で怪しい店でティーカップでお酒を飲んでいます。最初に見た頃の私は20世紀アメリカ史をよく理解していなかったようです。

更に強い印象を抱いたのは脚本の完成度の高さで、前半に出てきた台詞が後半で再現された時には涙腺を効果覿面に刺激する台詞に変容していることに目を見張りました。サッチモとの『聖者の行進』でのパパ・ハイドンの歌詞、ニコルズと娘ドロシーとの誓いの言葉「アラ・カザム・カザム」、親友との「ブルックリンの娘との結婚」話等の前半では別にどうということもなかった台詞が、まるで鮮やかに修復された後で絵画作品を観直した時のようにずしりと心に響いてくるのです。(この気づきがブログデビューの二番目の効果?)

軽いところでは床屋が客の顔をそりながら、ロッシーニ『セヴィリャの理髪師』のタイトルロール、フィガロのカヴァティーナ「私は町の何でも屋」を歌っているところあたりでしょうか。

-アンデルセンをロンドとして

ダニー・ケイは『アンデルセン物語』という映画で主人公アンデルセン役を演じています。アンデルセン原作の『赤い靴』は実験的なバレエ映画になっています。というかなり苦しいロンドで映画『赤い靴』にバトンをつなげます。

この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
Return Top
error: Content is protected !!