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15.『赤い靴』『ホフマン物語』戦後の実験的アート時代の遺産

15.『赤い靴』『ホフマン物語』戦後の実験的アート時代の遺産

―ロシアバレエ団 or  バレエ・リュス

(出典)赤い靴 [DVD] ファーストトレーディング  2011/02/15
『赤い靴』はアンデルセン童話『赤い靴』を原作としたマイケル・パウエル監督によるバレエとバレリーナをテーマとしたイギリス映画です。劇中のバレエ団の団長レルモントフは、そのスラブ系の名前からお判りのようにバレエ・リュス(昔は「ロシアバレエ団」といういい方だったのが、いつのまにか仏語表記「バレエ・リュス」というのが一般的になってしまいました。「バレエ・リュス」の方が音の響きがカッコいいからでしょうか?庭園美術館や新美での企画展の時も「バレエ・リュス」でしたね…) の創設者ディアギレフがモデルのようです。

このブログを目にして戴いている方々はよくご存じでしょうが、「バレエ・リュス」が古めかしいバレエを刷新し、ダンサー、コレオグラファー、音楽家、美術家、ファッション・デザイナー等を巻き込んで20世紀アートに与えた影響たるや、この連載を100回使っても書ききれない程です。記憶に新しい企画展では文化村でのエリック・サティ展、前世紀末の企画展では新宿小田急でのフランシス・ピカビア展等でも「バレエ・リュス」は大きく取り扱われていた記憶が残っています。

―絵のある絵本

アンデルセンといえば、同じ日本デンマーク国交樹立150周年記念イヴェントだった西洋美術館「スケーエン:デンマークの芸術家村展」の陰に隠れた形になってしまいましたが、先ごろ川崎市民ミュージアムにて「アンデルセン展」も開催されていました。「アンデルセンは詩人で、グリム兄弟は学者」という有名な言葉(らしいです)を10代の頃、友人から教えてもらった時はなるほど上手いことを言うものだと思いました。

私が練馬の「いわさきちひろ美術館」を最初に訪問した時は、いわさきちひろが挿絵を手がけた『絵のない絵本』をショップで真っ先に購入したのは言うまでもありません。虫プロのアニメーション作品『アンデルセン物語』シリーズは結構好きで、中でも長編『沼の王の娘』と『旅の道づれ』が強く印象に残っています。

―一粒で二度美味しい、バレエとオペラの同時鑑賞が出来るフランスオペラ

昔は(今も?)バレエは凄いブームだったのでしょうか?私が子供の頃目にしていた漫画では、少年向けの作品でもバレエシーンが結構出てきた記憶が残っています。勿論「バレエ・リュス」の切り口ではなく、古めかしいバレエの方でしたが…

伝統的にフランスではバレエが盛んで、『トリスタンとイゾルデ』で取り上げたドイツ人ヴァーグナーの歌劇『タンホイザー』にはパリ版が存在し、それにはオリジナルのバレエ音楽がついています。フランスオペラの上演にはバレエ場面がつきものなのです。私としてはグノー作曲『ファウスト』はオペラそのものよりもバレエ音楽の方が好きなので、生舞台でもCDでもバレエシーンに気合を入れて食いついてます。

(出典)王は踊る [DVD] アミューズ・ビデオ  2001/12/21

―王は踊る、刺繍花壇の上で

ルイ14世の「太陽王」(Roi Soleil)という綽名は、中高生時代は彼の権力が絶対的な存在である太陽のようだったのからかと勝手に思い込んでましたが、後年「太陽神アポロ」に扮して踊るのが好きだったというお茶目な理由に因むと知ってからは、ルイ14世に対するイメージも随分変わってきました。ルイ14世ってビックネームの割にはその生きざまが語られることってあまり多くないようですが、彼に対する好感度はもっと上がってもいいような気が致します。そんなルイ14世やモリエールも登場してくるイタリア人音楽家ジョヴァンニ・バッティスタ・ルッリがフランスを即ち世界を代表する作曲家ジャン・バティスト・リュリになっていく物語であるジェラール・コルビオ監督の映画『王は踊る』に刺激を受け、地元地方自治体が主催するバロックダンス教室を覘いたことがありました。バロックダンスには「舞踏譜」という踊る時の足の動きを記した音楽に対する「楽譜」のようなものがあり、ど素人の印象ですので正しい解釈かどうか怪しいのですが、「舞踏譜」を目にして、ルネッサンス・ダンスは直線的な構図、バロック・ダンスは「刺繍花壇」のようなシンメトリーの美しい構図のようだと感じました。つまり実際のダンサー達の動きもそんな風に見えるのです。

―実験的映画作製の時代の遺産

『赤い靴』の成功を受けて同じスタッフ陣による実験的な映画に『ホフマン物語』があります。傑作オペラをダンサー達がダンスで演じ、陰で声楽陣が歌っている訳ですが、クォリティは極めて高く、生のオペラ舞台を味わう時と同じ位の気力・体力を要求される作品に仕上がっています。 映画の最後の最後に指揮をしていたサー・トマス・ビーチャムの精悍な実写映像がカーテンコールのように出てきて幕を閉じます。紀伊国屋書店がDVD化してくれた時は予約を入れて発売日に購入した程ですが、出来るだけ劇場に足を運び、大画面で休養十分のコンディションの時に観るようにしています。

いわゆるファインアーツがその表現の方向性を実験的に模索していた時代とのシンクロか、この時代は映画でも実験的な試みが盛んに行われていました。第三回にて言及した八千草薫の『蝶々夫人』もこの文脈に位置付けていいのではないかと思います。

次回は極めてストレートにこのバレエ映画『ホフマン物語』の原作オペラとしてのオッフェンバック作曲『ホフマン物語』にロンドします。

この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
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