AE-Salon Webマガジン「alore(アローア)」

16.『ホフマン物語』夢中になり過ぎて影を失くさぬようにご用心を 

16.『ホフマン物語』夢中になり過ぎて影を失くさぬようにご用心を 

-実はイタリアオペラが苦手なオペラ好き

最初の方にプッチーニを取り上げたりはしましたが、その後は『薔薇の騎士』『トリスタンとイゾルデ』そして今回の『ホフマン物語』ときましたので、イタリアオペラは苦手だというのがバレバレですね。確かにイタリア・オペラ、特にベルリーニ、ヴェルディあたりはあまり聴かないです。若い頃は演劇好きだったので、声の良し悪しが聴ける作品よりも、脚本がしっかりしているという作品を選んでいるせいなのかもしれません。これはシェークスピア原作等に基くヴェルディ作品の脚本が弱いという意味ではありませんが…

-『仮面舞踏会』事件によりフェルセンはヴェルサイユへ導かれたのか?

高校生の頃は世界史オタクをしていたので、リソルジメント(イタリア統一運動)関連でヴェルディ作品なんかにはどっぷりと嵌ってもいいのに不思議なものです。ただ、スウェーデン国王グスタフ3世暗殺事件をボストン総督に置き換えた『仮面舞踏会』だけは、グスタフ3世の高官であったフェルセンが、この事件を契機に亡命貴族となりアントワネットと運命的な出会いをしたのではないかとの関心から、かなりのCDをストックしています。高校生の時、世界史の教師にこの事件について尋ねたところ、「グスタフ3世?受験ではグスタフ2世アドルフだけ知っていればいいから」と鼻もひっかけてもらえませんでした。

-やっと『ホフマン物語』に

『ホフマン物語』は美しい音楽が山のように散りばめられ、極めて文学的なストーリーも味わい深く、決定稿がないのが逆に幸いするのか多様な演出が楽しる機会の多い飽きのこない作品です。

タイトルロールであるホフマン以外の主要な登場人物は、自動人形オランピア(幻想に憧れるだけの恋)、ヴェネツィアの高級娼婦ジュリエッタ(肉欲)、病弱な歌姫アントニア(献身)という三人の女性とその愛の形、フィナーレでミューズへと変容する親友ニコラウス、そして各幕でコッペリウス、ダペルトゥット、ミラクルと名前を変えて現れる悪魔です。(ジュリエッタの幕のダペルトゥットは「いたるところに」という意味のイタリア語名です。悪魔はいたるところにいるぞとのアフォリズムでしょうか?悪魔が姿を変えて私達の前に現れることについてはヴィスコンティ『ベニスに死す』の時にもう少し詳しく触れる予定です。)ホフマンはこのヴェネツィアの幕で自らの影を失ってしまいます。

男性の恋の遍歴を表現しているかのようなホフマンは一人の歌手によって歌われますが、オランピア、ジュリエッタ、アントニアは複数のソプラノ歌手によって歌われることも、一人の歌手が歌い分ける(個の女性の多面体を表現?)こともあります。悪魔は一人の渋い低音歌手が演じわけるのが一般的です。

決定稿がないと前述しましたが、版により幕が入れ替わったり、舞台となる都市もジュリエッタのヴェネツィアは有名な「舟歌」(バルカローレ)の歌詞にゴンドラが登場することもあって変えにくいのでしょうが、オランピアとアントニアの幕の都市は演出によって色々と変わります。

―陽気なパリジャン

ケルン生まれの作曲家ジャック・オッフェンバックは日本では某カステラメーカーのテレビCMに使われたり、サンサーンスの『動物の謝肉祭』にも引用されている超有名オペラ『天国と地獄』(原題「地獄のオルフェ」)で代表されるようにコミカルな作品ばかりを手がけていて「陽気なパリジャン」と当時呼ばれていました。先程、決定稿がないと記したのは、オッフェンバックは晩年に唯一のシリアス作品『ホフマン物語』を手掛けましたが、未完に終わり複数の音楽家による補完版が存在するからです。コミカルな作品『地獄のオルフェオ』は祝典的な色合いも強く、私は学生時代にヴェネーツィアのカーニヴァル時期に火事で焼け落ちる前のテアトロ・ラ・フェニーチェで鑑賞したことがありました。往年の名リリック・テノール歌手ルイジ・アルヴァがマーキュリー役を歌っていて、流石欧州は懐が深いなと感じました。

-愛知への想いを新宿オペラシティーで叶える

『あいちトリエンナーレ2010』ではこの『ホフマン物語』の新演出上演が目玉の一つとなりました。後年、新宿オペラシティーにおける東京公演でやっとその演出を観ることが出来ましたが、歌い続ければ死ぬかもしれないアントニアに対し、悪魔ミラクル博士の仕掛けにより力いっぱい歌い続けろとアントニアに迫る「亡き母の肖像画」の変化の演出に絵画に関心のある人間としてこれは面白い!と魅せられました。

-コヴェント・ガーデンでも華麗に展開するホフマンの恋の物語

(出典)ホフマン物語[DVD] ジョン・シュレンシンジャー演出コヴェント・ガーデンオペラ版  ワーナーミュージック・ジャパン 2005/12/07
名映画監督ジョン・シュレシンジャーは名演出家でもあり(ルキノ・ヴィスコンティやリリア・カヴァーニの例もあります)彼がコヴェント・ガーデンオペラでの『ホフマン物語』を演出した映像作品は、随分前のものですが未だに決定版として評価が高いものです。この映像ではプラシード・ドミンゴがタイトルロールで、ホフマンが巡る三人の女性達は異なるソプラノ歌手によって演じられていますが、特にジュリエッタ役のアグネス・バルツァは凄いです。このシュレシンジャー演出は古典としてシュレシンジャー亡き後の今日でも活かされて上演され続けています。

-うわさの男、「真夜中のカーボーイ」登場!

次回は映画監督としてのシュレシンジャーの代表作であり私が愛してやまない『真夜中のカーボーイ』へとロンドします。

この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
Return Top
error: Content is protected !!