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17.『真夜中のカーボーイ』、カウボーイのミスタッチではありません… 

17.『真夜中のカーボーイ』、カウボーイのミスタッチではありません… 

-「うわさの男」にはハーモニカの哀愁を帯びた調べがよく似合う

今回はジョン・シュレシンジャーの映画監督としての代表作『真夜中のカーボーイ』です。よく言われているエピソードですが原題は「真夜中のカウボーイ」で、故水野晴郎がユナイト宣伝部勤務時代に自動車(カー)の都会的なイメージの取入れるという感覚で邦題を敢えて「カーボーイ」としたそうです。

日本のCMにまで使われるハリー・ニルソンの名曲『うわさの男』や、昨年の夏に亡くなったトゥーツ・シールマンスによる哀愁溢れるハーモニカの調べに乗って、ダスティン・ホフマン、ジョン・ヴォイトという後年アカデミー賞主演男優賞を受賞する2大スターが若き日に共演した名作です。成人映画の指定を受けながらも、健全な?米アカデミー賞の作品賞を受賞していて、主演の二人も主演男優賞にノミネートはされてました。私は高校生位の時から都内の名画座でこの作品が二本立てで上映されると、中間・期末試験中でもせっせと足を運んでました。真ん中に他の一本も挟んでの『真夜中のカーボーイ』2回、計3本も観続けていた訳で、若さというものは尊いことだったのだと「薔薇の騎士」の元帥夫人マルシャリンのような感慨を覚えます。

(出典)真夜中のカーボーイ [DVD] 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン 2004/02/20

-ディストピアよりユートピアを目指すも…

主人公の2人はディストピアたるニューヨーク片隅の鍵のかかった廃墟ビルの一室でくらしながらも、夢にまで見たユートピアたるマイアミをバスで目指しながらも届かず、夢破れます。マイアミ目前のショップに登場してくる爽やかな若い女性店員はユートピアの入口付近に佇む天使のようにも感じられます。というか二人は入口付近までは何とかたどり着けたんだなと思い込みたいところです。廃墟ビルの一室で「キャンベルスープ缶」を開けるシーンがありますが、これはアートファンへの後半の予告なのかなと思えます。まあアートファンというより、アメリカ人にとっては極めて日常的な光景なのでしょうが…(答えは後半に記していますので、どうか最後までご一読願います。)

-黄昏のタイムズ・スクエアに行きたし

学生時代に妙な格安航空券を使いニューヨーク経由で最初の目的地たる欧州アテネを目指した時に、ニューヨークの半日観光がおまけについてました。ソーホー地区でのランチまでついていてこれはお得と思ったのですが、「南無阿弥陀仏」との掛軸が掛けられてたレストラン店内で、モデルのような顔立ちとスタイルのお姉さまが運んできてくれた皿の中味はどうみてもシンプルな「モヤシ炒め」でした。今思うとヘルシーさこそが最先端という時代だったのでしょう。

当時の私にとっては、ニューヨークと言えば美術館、画廊、オペラハウスよりも『真夜中のカーボーイ』のプライオリティーが高く、この作品の舞台タイムズ・スクエアにまっ先に向かいましたが、昼間のタイムズ・スクエアは別にどうということもありませんでした。夕刻、JFK空港に向かう復路のバス車中から眺めた陽が落ち始めてきたニューヨークの街並みが、やっとこの映画で抱いていたニューヨークのイメージに近づいてたように感じられました。

-ウォーホルの「ファクトリー」メンバー登場

この映画には、何かが欠けている人物達がやたら登場致します。というか私達も皆、何かが欠けている訳ですよね。劇中の看板アルファベット文字も朽ちて欠落しています。ヴォイト演じるジョーが有閑マダム相手に文字通りの「真夜中のカーボーイ」になれた瞬間に流れる威勢のいい曲は『野生のエルザ』の音楽と似ています。それもその筈、音楽は同じジョーン・バリーが担当しています。

深い印象を残すドラッグ・パーティーの場面には、アンディ・ウォーホル本人は出演していないものの当時の「ファクトリー」メンバーが多数出演しています。ある意味、ニューヨークが一番病んでいた時代だったのでしょうか?中高生の頃の私には、ドラッグ・パーティーのシーンだけはやや退屈で長く感じられましたが、今なら目玉と思えます。以前の森美で開催された「ウォーホル展」でも、ライセンス問題がなければこの映像を流しても良かったのではないかなと思いました。

―ナポレオンVSシュレシンジャー

陳腐な例えになりますが、ナポレオン・ボナパルドが生粋のフランス人でなかった故に、パリのど真ん中でも大砲をぶっ放すことが出来たのだろうと言われているように、アメリカ人ではなくイギリス人ジョン・シュレンジャーが監督であったからこそ切り取れた当時のニューヨークの生の姿なのかもしれません。

次回は「ディストピアからユートピアへ」のロンドで今敏監督の傑作アニメーション『東京ゴッドファーザーズ』を取り上げます。

この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
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