
―クリスマスに想いを馳せて猛暑を乗り切りる?
常識的にはこの作品を取り上げるのはクリスマスシーズンが相応しいのでしょうが、ロンドの絡みからいうこととデビュー仕立てのど素人のこと故、どうかご容赦願います。今年は川端龍子の没後満50年ということもあり、このブログでは大好きな龍子作品にしばしば登場をお願いしていますが、龍子が実際にはない南方の雪景色を描いた『炎庭想雪図』みたいな「のり」で、クリスマス話により連日の猛暑の日々に多少の清涼感をお届け出来ればと思います。クリスマス映画と言えば『三十四丁目の奇跡』『素晴らしき哉人生!』『クリスマスキャロル』あたりを取り上げるのが一般的なのでしょうが、前回の「真夜中のカーボーイ」がディストピアからユートピアに行きつけなかったのとは逆ロンドで、聖夜の奇跡によりディストピアがユートピアに見事に変容する至福の作品、今敏監督『東京ゴッドファーザーズ』を真夏にご紹介させて戴きます。
ストーリーは会田誠の「段ボールハウス」を思わせるようなゴミだめに暮らす二人のホームレス(声優は名優江守徹とWAHAHA本舗の梅垣義明で、勿論、梅ちゃん十八番「ろくでなし」のシーンは作品中にしっかりと出てきます。)のところに幼子イエスを思わせる「清子」が訪れることにより、聖夜の奇跡が展開されていくという内容です。
様々な賞を受賞している『千年女優』『パプリカ』と並ぶ今敏監督の代表作ですが、本作『東京ゴッドファーザーズ』の面白さはこの三本の中でもずば抜けているのではないかと私は思います。後味も実に爽やかで心地よいものです。
―ジャケ買いならぬ装丁買い
―じゃ、お先に。
今敏監督は肝臓がんに侵されていて、死期を認識していて「じゃ、お先に。」との遺書メッセージを残して、46歳の若さで亡くなっています。流石に遺書をここに引用するのは遠慮いたしますので、ご関心のある方は、「今敏」「遺書」でググって戴ければ、遺書の内容をご覧になれます。今敏ご本人も『東京ゴッドファーザーズ』が一番気に入っていたのではないかと私には思われる内容です。
モーツァルトがもっと長生きしていればとか、マーラーがせめてもう一曲シンフォニーを作曲していればというようなことがよく言われますが、モーツァルトもマーラーもあれだけの珠玉の名曲の数々を残したのですから、人生を全うしたと言えるのではないでしょうか?同様に、今敏も46才の若さでの早世ですが、これだけの傑作の数々を残せたのですから、羨ましい人生だったと私には思われます。アンデルセンに戻ってしまいますが、『年をとった柏の樹の最後の夢』で長い樹齢を経た柏の樹とかげろうの生涯の対比されていたのが思い起こされます。
真夏に荒涼とした「ディストピア」ロンドが三回続いてしまいますが、次回はキム・ギドク監督の映画『鰐』につなぎます。