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18.『東京ゴッドファーザーズ』真夏に最高のクリスマス映画をご紹介

18.『東京ゴッドファーザーズ』真夏に最高のクリスマス映画をご紹介

―クリスマスに想いを馳せて猛暑を乗り切りる?

常識的にはこの作品を取り上げるのはクリスマスシーズンが相応しいのでしょうが、ロンドの絡みからいうこととデビュー仕立てのど素人のこと故、どうかご容赦願います。今年は川端龍子の没後満50年ということもあり、このブログでは大好きな龍子作品にしばしば登場をお願いしていますが、龍子が実際にはない南方の雪景色を描いた『炎庭想雪図』みたいな「のり」で、クリスマス話により連日の猛暑の日々に多少の清涼感をお届け出来ればと思います。クリスマス映画と言えば『三十四丁目の奇跡』『素晴らしき哉人生!』『クリスマスキャロル』あたりを取り上げるのが一般的なのでしょうが、前回の「真夜中のカーボーイ」がディストピアからユートピアに行きつけなかったのとは逆ロンドで、聖夜の奇跡によりディストピアがユートピアに見事に変容する至福の作品、今敏監督『東京ゴッドファーザーズ』を真夏にご紹介させて戴きます。

(出典)東京ゴッドファーザーズ[DVD] ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 2004/04/28
この作品はマッドマックス制作の今敏の監督・脚本(原作)によるアニメーション作品で、「スーパーレアリズム」さながら、背景画等は超リアルな描写となっています。(特にオープニング場面は凄いです。)

ストーリーは会田誠の「段ボールハウス」を思わせるようなゴミだめに暮らす二人のホームレス(声優は名優江守徹とWAHAHA本舗の梅垣義明で、勿論、梅ちゃん十八番「ろくでなし」のシーンは作品中にしっかりと出てきます。)のところに幼子イエスを思わせる「清子」が訪れることにより、聖夜の奇跡が展開されていくという内容です。

様々な賞を受賞している『千年女優』『パプリカ』と並ぶ今敏監督の代表作ですが、本作『東京ゴッドファーザーズ』の面白さはこの三本の中でもずば抜けているのではないかと私は思います。後味も実に爽やかで心地よいものです。

―ジャケ買いならぬ装丁買い

(出典)パプリカ [DVD] ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 2007/05/23
『パプリカ』は中央公論社から出版された筒井康隆による原作に基きますが、この本の装丁はポール・デルボー作品を引用していて、その装丁に惹かれて、私は発売日に装丁買いをしてしまいました。今敏は原作に魅せられて『パプリカ』映画化を長年温めていたそうです。ポール・デルボーには機会があればこのブログの中でロンドしていきたいなと思っております。先日まで松濤美術館で開催されていた「クエイ兄弟展」でのギャラリートークで、キュレーターの方が「市電」に言及したとたんに「デルボー!」と思わず声を漏らした方がいらっしゃって、デルボー人気の根強さを改めて実感致した次第です。(松濤美術館の建物、展示空間と「クエイ兄弟」との親和性は、伝説となっている10年程前に庭園美術館にて開催された『夏の邸宅』での舟越桂によるスフィンクスとの親和性といい勝負をしていたのではないかと舌を巻きました。極めて満足度の高い企画展でした。)

―じゃ、お先に。

今敏監督は肝臓がんに侵されていて、死期を認識していて「じゃ、お先に。」との遺書メッセージを残して、46歳の若さで亡くなっています。流石に遺書をここに引用するのは遠慮いたしますので、ご関心のある方は、「今敏」「遺書」でググって戴ければ、遺書の内容をご覧になれます。今敏ご本人も『東京ゴッドファーザーズ』が一番気に入っていたのではないかと私には思われる内容です。

モーツァルトがもっと長生きしていればとか、マーラーがせめてもう一曲シンフォニーを作曲していればというようなことがよく言われますが、モーツァルトもマーラーもあれだけの珠玉の名曲の数々を残したのですから、人生を全うしたと言えるのではないでしょうか?同様に、今敏も46才の若さでの早世ですが、これだけの傑作の数々を残せたのですから、羨ましい人生だったと私には思われます。アンデルセンに戻ってしまいますが、『年をとった柏の樹の最後の夢』で長い樹齢を経た柏の樹とかげろうの生涯の対比されていたのが思い起こされます。

真夏に荒涼とした「ディストピア」ロンドが三回続いてしまいますが、次回はキム・ギドク監督の映画『鰐』につなぎます。

この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
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