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19.こんな綺麗な光射す水底でなら、私は『鰐』になりたい

19.こんな綺麗な光射す水底でなら、私は『鰐』になりたい

-日本の北野武、中国のジャ・ジャンク―、そして韓国のキム・ギドク

今回はキム・ギドク監督が初めて長編を監督した作品『鰐』です。ジャ・ジャンク―が「中国の北野武」と言われていたように、「韓国の北野武」と言われていたギドクの人気がかなり出てから、この映画は日本で公開されました。他のギドク作品同様、いやそれ以上に「水」が主要モチーフとなっています。

「鰐(ワニ)」と呼ばれている主人公は入水自殺者の財布から金を抜き取ったり、自殺未遂の女性を犯して川沿いで生きていくような男です。

「鰐 ギドク」の画像検索結果
(出典)鰐[DVD] ハピネット (発売日不明 絶版のようです)

-抱える相反

誰もがそうであるように、そんな「ワニ」も数々の相反を抱えながら生きています。

・ディストピアの中で、一見いがみあっているようにみえても、「ワニ」を中心にしっかりと結びつきながら川沿いに暮らす疑似家族(主人公のワニ、ハイソな男とつきあっていた自殺未遂の女性、訳ありげな元知識人風の老人、幼い少年の四人家族で暮らしています。)

・主人公「ワニ」は沈むことを嫌っていながらも、川底にもぐることをやけに好み、何かにつけてはもぐっていきます。

・主人公は「ワニ」という強そうな綽名を持ちながらも、簡単にボコボコにされてしまうシーンがやたら多いのです。

-ディストピア傍らのどぶ川底に現れるユートピア

人がゴミを投げ捨てることによって汚れたどぶ川の底に最後に現れる、IKB(インターナショナル・クライン・ブルー)風の色のペンキで甲羅の背を塗りつけられた亀、ソファー、絵画等により構成された、その川底の彼岸の世界の美しさは見事です。ディストピアからさえも棄て去られてしまったものばかりによって、実に美しいユートピアが構成されているのです。水底に射し込む光の煌きの美しいこと。

-来年度のアート・トレンドは「ディストピア」かも?

先日発表されたばかりの森美術館の来年度ラインナップを目にしますと、「カタストロフと美術のちから展」が2018.10.6~2019.1.20に開催されるようです。この企画展では、「ディストピアからの再生」が取り上げられそうな気が致します。「ディストピア」ロンドが三回も続いてしまいましたのは、外れるかもしれませんが来年度のアート・トレンドの予告編?ということでご容赦願います。個人的には池田学『誕生』が出展されないものかと期待していますが、完成のタイミングがやや遅かったかも…です。『誕生』は3.11からの再生を願った超大作の中に散りばめられた様々な遊びや仕掛けに再生を願う作家の心温かいユーモアが感じられます。この作品は、9/9までミヅマアートギャラリーにて(アカデミーでの授業の前後等にお立ち寄り戴けます。ちょっと歩きますが、照明等も抜群の展示環境で歩く価値は十二分にあります。)、百貨店開催なので期間が短いのですが、9/27~10/9には日本橋高島屋にてご覧戴けます。

 -人生の四季

(出典)春夏秋冬そして春 [DVD] エスピーオー 2005/04/29
キム・ギドク監督の『春夏秋冬そして春』は私が初めて観たギドク作品でした。歯科医院での待時間に眺めていた女性誌により関心を抱き、劇場まで足を運びました。現世から隔離された湖上の寺だけで描かれる一人の男の生き様。春夏秋冬に例えられる人生の四季、現在開催中の西美「アルチンボルド展」でもそんな表現がありますね。高校生時代の漢文授業で学習した「人事は有限、自然は無限」を思い出しながら、この映画を観ていました。

 

 

―鈴木大拙登場!

6月の日経新聞朝刊『私の履歴書』連載で建築家谷口吉生が鈴木大拙(アートファンの方は森美術館「リー・ミンウェイ展」にて鈴木大拙に大きくスポットが当てられていたことを思い起こされていらっしゃることでしょう。)の言葉「移りゆく時間、そのほかに永遠はない。永遠は絶対の今である。」を引用していました。谷口氏は2011年に金沢市に完成した「鈴木大拙館」(先程ディスストピアのところでもご紹介した森美術館の次年度ラインナップによると、鈴木大拙館の関連展示「建築の日本展:その遺伝子がもたらすもの」(2018.4.25~9.17)が金沢まで行かなくても観れそうで、やたら楽しみです。)を設計していますが、その「思索空間棟」からは四季の光景が壁面の開口部に絵画のように縁取られて見えることを狙ったそうです。常にそして永遠に移り変わる「季節」という終わりなき自然サイクルの中での限りある人間の「生の営み」ということについて考えさせられます。

―ギドクにとって「水」が意味するもの?

他作品でも、『弓』の船上生活をしている疑似父娘、『うつせみ』の印象的な金魚鉢、『魚と寝る女』(小栗監督『泥の河』と同様、ヒロインは船上で客をとっています。)等々で水が表しているものは羊水のメタファーで、胎内回帰願望の現れでしょうか?

タルコフスキ―作品のファンの方は、「水」のロンドでタルコフスキ―へのロンドを期待されるかもしれませんが、次回へのロンドは「人生の春夏秋冬」の方でフェデリコ・フェリーニの『アマルコルド』へとつなぎます。

開始してから4カ月、週単位のブログでもいつのまにか1/3が過ぎると綴った内容に関する人物のニュースが流れたりします。『黒衣の花嫁』で取り上げたジャンヌ・モローの訃報が流れる前に新美に山田五郎のジャコメッティ講話を聴きにいったら、ジャコメッティ夫妻とモデルを務めた矢内原伊作の三角関係を『突然炎のごとく』に例えてました。モローの訃報の後だったら、山田五郎の口からモロー論が聞けたかもしれません。本ブログの下書きを作成中にはギドクの『メビウス』撮影時のネガティブな事件記事を目にしました。どうやらこの事件により主演女優が降板したようですが、個人的には代わりに起用された女優イ・ウヌの大ファンになってしまいましたので、私としては♡かも…

この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
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