AE-Salon Webマガジン「alore(アローア)」

26.デルヴォーの誘いにより『快楽の館』へ足を踏み入れると…

26.デルヴォーの誘いにより『快楽の館』へ足を踏み入れると…

―私とポール・デルヴォーとの出会い

私がデルヴォー作品を強く意識して観るようになったのは1982年に東近美等にて開催された「ベルギー象徴派展」で個性的なフェルナン・クノップフ、ジャン・デルヴィルらの象徴派作品の数々の中でもひときわ光輝くポール・デルヴォーの大作を目にした時で、それ以来デルヴォー作品に魅かれ続けています。列車と鉄路と駅舎が描かれた昼の光と夜の闇が同居しているような作品が大好きなので、『鉄道員』からの鉄路つながりの「ロンド」とさせて戴きます。東近美の図録は奇跡的にまだ手元にあるのですが、今開くとがっかり…なんていうことがないように、屈折したオヤジとしては敢えて今回は封印を解きませんでした。

その後、伊勢丹新宿店(を含む諸百貨店)が最上階で美術展を開催していた頃、3回程デルヴォー展に通った記憶があります。本格的な巡回展でしたが、伊勢丹美術館特別なパイプがあったのか、企画キュレーターが熱烈なデルヴォーファンだったのか、1960年代のデルヴォーが一番脂の乗っていた時期の傑作が毎回数多く展示されていました。その後、これだけの質・量のデルヴォー作品が日本で揃ったことはないのではないでしょうか?何年か前の久々のデルヴォー展では、そういったいい作品はあまり出ていないように感じられ、正直がっかりしました。

―日本でも根強いデルヴォー人気

デルヴォーの個展ではなく、ベルギー作家の総合展で出口近く(時系列の絡みから)に展示してあるデルヴォー作品に対し「デルヴォーだ~」と歓声が上がるのを聞くことが多く、やはり日本でのデルヴォーの人気は根強いものがあるのだなと思い知らされます。前述の直近のデルヴォー展にリンクした講演会を埼玉県立美術館で聴いた時には、日本の文学作品の中にデルヴォーが引用される時は「ヘアーが描かれている裸体画」の代表としてのイメージだったということが語られてました。

学生時代に生協で開催されていたイヴェントで、デルヴォーの『煌々と』(Toutes les lumieres)の大型ポスターを購入したことがありました。デルヴォーお馴染の裸電球の下、目のくりくりした美女が黙々と夜の街を歩いている構図の作品です。学生の身分としてはかなり気張ってポスターを入れるにはもったいないような額を優美堂で購入し、いそいそと玄関に飾りつけ、更に画中の裸電球と似たデザインのスポットライトを見つけてきて、このポスターに同じ角度で当てて「これで、二次元から三次元になったぞ」とはしゃいでいたこともありました。こんなデルヴォ―愛、今思うとやたら意地らしい限りです。

裸婦、裸電球、列車、骸骨、古代遺跡、森、夜の静寂等の常数が反復されて描かれるデルヴォ―ワールド、一度はまってしまうともう抜け出すことは不可能です…

―デルヴォーからの誘いには乗るしかなく…

昨年の原美術館『快楽の館』展の原氏と壇蜜の篠山篠山紀信による写真がインパクトのあったフライヤーは、そんなデルヴォーワールドをスタイリッシュに見事に具現化してくれていました。遅まきながら、この歳にして原美へのデビューとなりましたが、このフライヤーを入手した時からこれは行くしかないなと訪問日を心待ちにしていました。果たして多くのアートファンがデルヴォ―からの誘いに乗せられてしまったようで、原美は大賑わいの上、図録は既に売り切れていました。私は週末の昼間に訪れたのですが、長年のデルヴォ―ファンを自称するからには、やはり水曜日の夜間開館時にも行くべきだったかもしれません。

ヌーボーロマンの旗手と呼ばれたアラン・ロブグリエが、フランスの美術ドキュメンタリー『サンティディスバールの夢遊病者』の中で『去年マリエンバートで』の宴会場面はデルヴォー作品から引用したと語っていました。このドキュメンタリー映像ではサンティディスバール(シントイデスバルドSint-Idesbald)の街頭に未だ残っている裸電球がしっかりと映ってて(勿論この『サンティディスバールの夢遊病者』が撮影された当時のこと)、しかも有名なポール・デルヴォ―美術館もある訳ですから、ファンとしては死ぬまでに一度は訪れなくてはと思ってはいるのですが未だ実現出来ていません。どうして生誕百周記念の年に行かなかったのかなと後悔しています。

私はこの『サンティディスバールの夢遊病者』のレーザーディスクを所有しているのですが、LDプレイヤーが壊れてしまっていて再生不能です。DVDかブルーレイ化されてしかるべき作品だと思うのですが…

次回は『去年マリエンバートで』と『二十四時間の情事』の二本の映画作品にロンド致します。この二本は現在開催中の『サンシャワー展』の新美会場の方での展示品、ミン・ウォンによる映像作品『来年』で、ウォン氏により強烈に演じられています。

この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
Return Top
error: Content is protected !!