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「○○的」って何だろう?~ナビ派から考える~

「○○的」って何だろう?~ナビ派から考える~

たくさんの「的」

西洋美術の解説本で「世紀末芸術」のページを開くと、どの本を見ても「的」とつく言葉が、非常に多く登場することに気がつかされる。

平面的、装飾的、神秘的、曲線的・・・。

しかし、これらの用語をきちんと定義している書籍は、なかなかない。

そこで今回は、先日まで三菱一号館美術館にて展覧会が開催されていた「ナビ派」を取り上げ、そこにひそむ「的」の意味を考えてみる。

「平面的」って、どんな平面?

「ナビ派の作品は平面的である」と、記載してある解説本やWeb記事は非常に多い。

では、ここでいう「平面」とは、どのような平面なのだろうか?

決して「塗り方が均一」というわけではない。もし、塗り方が均一ならば、作品を横から見たときの厚さは一定のはずであるが、実際には、かなりでこぼこしている。

実は、世紀末芸術で言われている「平面的」とは「画中に影が存在しない」という意味と同じである。

三次元的な表現からの隔絶を図った、いわゆる「二次元表現」というと、真っ先に思い浮かぶのはマネの作品であろう。「平面的」の意味の謎を解く大きなポイントは、ここにある。

マネの作品は、それまでの西洋絵画と比べて、「影」の描写が占める割合が極端に小さいのだ。このことは、オルセー美術館の「笛を吹く少年」を思い浮かべればすぐに理解できるだろう。

ナビ派の作品には、そのような特徴がもっと極端な形で見つかる。よく観察すると分かるのだが、ほとんどの作品に「影」の描写が全くないのだ。要するに、対象の「奥行き」が表現されていないのである。

この「奥行きのなさ」を言い替えると、「平面的」という言葉に集約されるのだ。

つまり、「平面的」とは、「奥行きを表現していない」という、描き方の特徴を端的に示した表現なのである。

「装飾的」とは言うけれど・・・

ナビ派の作品について、「装飾的」という指摘もよく見受けられる。これも、分かったようでいて、よく分からない曖昧模糊とした表現である。しかし、「平面的」に比べると、この用語は意外と理解しやすい。

ヒントは、ナビ派の画家たちが活躍した19世紀末を代表する芸術、「アール・ヌーヴォ」の作品の中にある。

実は、「アール・ヌーヴォ」の作品には、「曲線」を多用した表現が非常に多いのだ。この「曲線」こそが最大のポイント!

この時代の「装飾的」とは、「曲線的」と、ほぼイコールなのである。すなわち、対象を「曲線的」な描写で表現することこそが、当時の「装飾」だったのだ。

だからこそ、ナビ派作品の特徴として、「優美な曲線美」とか「曲線的な美しさ」といった表現が登場してくるのである。

「神秘的」って、何を言っているのかな?

最後に取り上げるのは一番難解と思われる「神秘的」という表現。現代でも頻繁に使用されるけれど、よく考えてみると何のことやらさっぱり分からなくなるこの言葉。

さて、ナビ派における「神秘」とは一体何だったのか?

ナビ派の「ナビ」とは、ヘブライ語で「預言者」という意味である。「ヘブライ語」、「預言者」といえば、真っ先に思いつくのは、ユダヤ教誕生の歴史であろう。いわゆる、「旧約聖書」の物語である。

紀元前にヘブライ人を団結させ神への正しい信仰を説いた預言者に、19世紀末の画家たちは、当時の巨匠ゴーギャンをなぞらえた。パリの芸術家集団が、自分たちの名称にわざわざ難解な「ヘブライ語」を用い、しかも「預言者」という、神がかった意味まで持たせたということは注目すべき点であろう。

ナビ派の「神秘性」は、このゴーギャンへの「崇拝」とも取れる思いから生まれたものなのだ。

後から歴史を振り返ってみれば、わずか10年あまりのナビ派の結束は、数千年単位のユダヤ教信仰の結束からすれば、取るに足りないものであったかもしれない。しかし、だからといって、現代に生きる我々がナビ派の価値を過小評価するのは、あまりにも早計であるし、過去の人間に対して残酷でさえあると私は考える。

ナビ派結成当初、「神秘的」というたった3文字で表されてしまう言葉の裏に、画家たちがどれほどの希望と熱意をこめていたのか?後世の我々が評価、判断すべきは、「ゴール地点」での歴史的結論ではなく、「スタート地点」での人間的な思いではなかろうか?

ナビ派の「神秘性」自体は、決して、作品のように「平面的」なものではなく、非常な深さの奥行きを持ったものなのだと、私は思う。

おしまいに

芸術を言葉で表すのは、非常に難しい。だからこそ、その意味を深く考えることは、その芸術の成り立ちや当時に生きた画家たちの思いを理解する上で、この上なく有効なことなのだろうと改めて感じるところである。

この記事のライター

aloreライターmilkhoppy
<出身>
仙台生まれの東京・川崎育ち。

<所有資格>
アートエバンジェリスト、美術検定2級、教員免許。
 
<意気込み>
「正確なインプットと分かりやすいアウトプット」を、常に心がけ、頑張りたいと思います。
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