
三菱一号館美術館のレオナルド×ミケランジェロ展に行きました。本展は、同世代を生き、お互いの存在を高め合ったライバルのふたりの素描(ディゼーニョ)を見比べられる日本で初めての展覧会です。
ふたりの紹介
画家、彫刻家、建築家、音楽家、数学者…あらゆる分野で才能を発揮した天才レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452~1519年)。彼は、独学で素描を学びました。それに対し、若干13歳で芸術家の工房に弟子入りし、才能をメディチ家に見出され一流の教育を受けたミケランジェロ・ブオナローティ(1475~1564年)。彼もまた、画家、彫刻家、建築家、詩人として、才能を発揮しました。
素描の違い
違いは、複数の平行線を書き込むハッチングです。
レオナルドのハッチング
光の影となる部分を示すために描かれています
暗いところに濃淡をつけるだけでは、物足りず、明るく見せたいところには鉛白を使ってハイライトを利かせています。この手法は、後のバロック時代では、光と影をダイナミックに再現するようになります。
さて、レオナルドの作品をひとつ紹介します。

少女の頭部《岩窟の聖母》の天使のための習作/1485~85年頃
振り返る女性のポーズに美を見つけた作品。顔の角度は「岩窟の聖母」に生かされてます。金属尖筆で影の部分に粗いハッチングを引き、まぶたは鉛白を使って明るさを表現しています。また、本展にはなかったのですが、モデルの選択に関する手稿がありました。(参考資料:レオナルド・ダ・ヴィンチ 天才の素描と手稿 /編 H・アンナ・スー/監訳 森田義之/訳 小林もり子)
ミケランジェロのハッチング
彼は、クロス・ハッチングです。線を交差させることで、体の凹凸まで表現しています。また、彫刻家を自負するだけあり、骨格や筋肉に沿い、形を正確に彫り出すように描いてます。
さて、ミケランジェロの作品をひとつ紹介します。

《レダと白鳥》の頭部のための習作/1530年頃
さまざま角度から見たときの輪郭線を頭の中で構成し、線を交差させることで頭部の骨格を表現しています。女性像ながら、ギリシャ彫刻のような額からひと続きの男性的な鼻は、ミケランジェロの特徴です。
素描は、弟子や追髄者への教科書でもある
レオナルドもミケランジェロも多数の弟子や追随者がいて、彼らは手本として、素描を参照していました。彼らの作品制作方法は、まず、手本を模写します。次にマケットと呼ばれる小さな立体物を作ります。そして、それをモデルとして再びうつします。最後にカルトン(原寸大下絵)では、群像、構図が色彩をもって描いて完成に近づける、といった具合です。
ふたりは、それぞれ弟子や追随者にこうアドバイスしています。
レオナルド
画家は、まず優れた師匠の手になる素描を模写することを習得しなければならない
ミケランジェロ
アントニオ、素描しなさい。素描しなさい、アントニオ。時間をむだにしないで
最後に
今まで、展覧会で見過ごしていた「素描」。下絵ね、とばかり展覧会では、あまりじっくりと見た記憶ないです。今回は、線による絵画を見て、素描には画家の考えや観察の仕方、捉え方の原点が含まれていることに気がつきました。今回の展示会に出向いて素描の良さに気づけて大変勉強になりました。