AE-Salon Webマガジン「alore(アローア)」

2017年を振り返って

2017年を振り返って

-ネガとプリント、見せ方という視点から

何年か前のアートラボ立上げ初年度に中目黒で写真ギャラリーを営む方からアンセル・アダムスの「ネガはスコア(楽譜)で、プリントはパフォーマンス(演奏)である」との有名な言葉を教えて戴いたことがあります。昨年ミッドタウンで開催されていたアダムス展でもこの原文がしっかりと壁面に表示されていました。

絵画作品の見方・見せ方でも同じようなことが言えるのかもしれません。小品を自宅に飾る場合に、人をお迎えする玄関、通過時に一瞥する階段や廊下、時間をかけて眺めるリビング、一日の終わりと始まりに目に飛び込んでくる寝室と設置場所を変えるだけで、同じ作品でも見え方が変わってくるような気が致します。そこで、先ずは見せ方という視点で回顧してみたいと思います。

1.「渋谷区立松濤美術館の頑張り(「今様」、「クエイ兄弟」、「三沢厚彦アニマルハウス」)

白井建築を活かした空間の中での昨年のラインナップは、区立美術館とは到底思えないような物凄い頑張りを立て続けに見せつけてくれました。いずれの展覧会も汗だくになりながらも一回づつしか足を運べませんでしたが、最低二回は観てみたかったです。それほど面白かったです。

2.「東京都美術館 杉戸洋 とんぼとのりしろ」

上記アニマルハウスでの西村画廊オンパレードの中に小山ギャラリーの杉戸洋も参加されていましたが、都美の前川建築を活かしたギャラリーA,B,Cでの懐かしい光に包まれた空間は実に魅惑的なものでした。ホワイトキューブでしっかりと集客し、ギャラリーA,B,Cで本当に見せたいものをお見せしましょうという都美スタッフの心意気が感じられます。昨年の「木々との対話」も大変面白かったですし、何年か前の「福田美蘭」も興味深いものでした。ギャラリーA,B,Cへは他の企画展の半券で入場出来ることが多く、こんな凄いおまけがついているとやたら得をした気分になれます。

3.「森アーツ ドラえもん展」

上記都美福田美蘭展で前回(2002年)のドラえもん展への出展作品「レンブラント」にやたら心惹かれたので、今回のドラえもん展を楽しみにしていました。

選ばれなかった作家は気の毒とさえ思える程、画廊の壁を越えベテラン・若手を取り混ぜた往年の紅白歌合戦のような豪華なラインナップで、紅白に選ばれないと自棄になって裏番組に出演するというのと同じような「のり」で、漏れたアーティストはドザエモン展をやるしかないのかと…

絵画作品だけではなく、オブジェ、映像作品、影を効果的に使った作品等々バリエーションも効いていて実に楽しい空間でしたが、森アーツというよりも、森美のテイストかなと思えるような作品も散見され、家族連れの観客の中には戸惑いを感じた方もいらっしゃったのではないかと思います。特に西村画廊の町田久美による『星霜』は、「ドラえもん」というよりも、むしろ「火の鳥」の世界感で、ある意味「怖い絵」よりもよっぽど「怖い絵」だなと思わされました。

4.「東京シティビュー ブルガリ セルペンティ展」

4/1までの会期なので森美「エルリッヒ展」には言及しませんが、その仕掛け部分のスペースに食われた影響で、「シンプルな形」や「芸術と宇宙」ではこれでもかという程、潤沢な作品数を見せてくれた椿キュレーターによる企画展としてはこれだけ?感を覚え、多少食い足りなさが残りました。

ところが、半券で入場出来る「セルペンティ展」はローマ⇒シンガポール⇒東京(⇒次は米?)という国際巡回展に相応しい見事な構成で、空間も効果的に使ってメープルソープ、ニュートン、ニキ・ド・サンファル、キース・へリング、小谷元彦、天明屋尚、金子富之、ヘリドノ等の豪華なラインナップは、その食い足りなさを補って余りあるもので、アートファンへの何よりのクリスマスプレゼントでした。

会期が一ヵ月と短いこととあまり話題にならなかった(巳年にぶつければ良かったのでしょうか?)のが残念でしたが、私は3回も短い足を運んでしまいました。(内1回は六本木ヒルズツアーとして知人をご案内)

5.「東博 運慶展」

よくぞここまでという出展作品数、照明等を含む鑑賞しやすい展示方法だけでも大拍手ものでしたが、圧巻は無著・世親兄弟像を四天王が取り囲む大空間でした。どうだと言わんばかりに多聞天が高みを指し示す様は、杉本博司ばりのコンテンポラリー・アートのテイストで、よくぞ東博がここまでやってくれるものだとびっくり仰天致しました。

-初めての地での街歩き

初めての作家の生涯を辿るのは、初めて地を歩き回るような懐かしさを覚えます。次は見せ方を離れ、初めのアーティストとの出会いという視点からの選択です。未熟者なのが幸いして、昨年も大勢の「初めて」と出会うことが出来ました。

6.「東京ステーションギャラリー 不染鉄」

会社の同僚に強く勧められて観に行ったのですが、行かねば人生損をするところでした。特に、晩年の現世の彼岸のような世界感に魅せられ、抜け出せなくなっても絵の中に入っていきたいような気分になりました。

7.「森美 ハルシャ」

初の回顧展と言っても、未だ若い現役のアーティストですが、面白く楽しめました。「片桐です」さんも本aloreにて取り上げていらっしゃいます。10年も前にメゾン・エルメスが個展をやっているとのこと、流石エルメスです。「落合ツアー」時に毎々お世話になっているアダチ伝統木版製のハルシャさん版画作品を思い切って購入してしまいました。

8.「練馬区美 麻田浩」

練馬区美の伝統、「あまり知られていないけどこんな凄い画家がいるぞ」の一環です。緑色の顔料の毒性ということがミステリーなんかでもよく取り上げられますが、作品を眺め眺めているうちに心地いい緑色の中毒になってしまい、どっぷりと浸かってしまいました。ご本人も浸かりすぎてしまったのかもしれません…

9.「セルバンテス文化センター 戸嶋靖昌」

鴨居玲のようなテイストもある、魅惑的な作品の数々をアカデミー近くのスペイン国営施設で、快適なコンディションと深い解説付きで鑑賞することが出来ました。

-最後に画廊編を

10.「ミヅマアートギャラリー 池田学」

佐賀より巡回してきた高島屋日本橋での展覧会は大行列となりましたが、『誕生』単品だけなら、その直前にミヅマ・アートギャラリーで素晴らしいコンディションで比較的長い期間に亘り観ることが出来ました。

美人ギャラリストが1対1で丁寧に解説してくれるのに味をしめて何回も通ってしまいました。池田学本人の書籍もカバーを含めて親切この上ない仕上がりでした。いいものを観たなという思いです。

その他のギャラリー編では、リクシル「西山卯三」、東京画廊「高明根「A blending space」」(観ている内に無性に韓国映画が観たくなってきました)、ポーラ・アネックス「アルベルト・ヨナタン」(「サンシャワー」でインスタ№1となった森美展示スペースの壁一面を飾った作品「ヘリオス」が素敵だったヨナタンは作品も魅惑的なのですが、何よりも氏の人柄に惚れこんでしまいました。どろどろっとした?アートの世界でこんなにピュアで真摯な好青年がいること自体嬉しくなりました。好意でレセプションやギャラリー・トークに招待して下さったミヅマ・アートギャラリーにも大感謝ものです。)が印象に残りました。

-ベスト10に漏れてしまった展覧会にこそ…

次点としては芸大陳列館「SEIZE THE ANOTHER DAY」ではキュレーターの力ということをしみじみと感じました。やけに面白いと思ったら、トータルコーディネーターに長谷川祐子の名前があったので道理でと納得致しました。

国学院「いのちの交歓-残酷なロマンティスム-」2月半ばまでやっているのと、生理的に苦手に感じる方もいらっしゃるでしょうから除かざるを得ませんが、昨年の締め括りとして観たこともあり私としてはベスト1ものです。ほっておいても大行列が出来るような展覧会ではなく、こういう展覧会こそ本サロンで紹介していけたらいいなと思います。

この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
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