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美術館と私3 建築と彫刻

美術館と私3 建築と彫刻

* 美術館と私 3 建築と彫刻 *
〜小平市平櫛田中彫刻美術館〜

海やプールにでかける気力も失せる程、ここ数年続く夏の猛暑や残暑。こんな時は、涼しい美術館で一息つくのは如何でしょう?無料のミネラルウォーターやジュースの自動販売機もあり、ライブラリーコーナー、ユニークなミュージアムショップなどでクールに頭を冷やしませんか?
今回のテーマは「建築と彫刻」。建築はアートであると最近では特に耳にするような気がします。立体のアートである彫刻、そしてその彫刻の展示空間としての建築。しかし古代ギリシアローマの時代でも建築に華麗なレリーフなど装飾がなされ、アートとしての側面も持っていました。現代になると、建築もモダニズム様式や対立するポストモダニズムなどが混沌とし、四角いだけの高層建築が並ぶ都市の景観に世界中の建築家は様々な挑戦を投げかけるようになり、これはまさに広大なアートの競演です。

1. モダニズムとポストモダニズム

近現代建築は、モダニズムとポストモダニズムという大きな二つの流れに象徴されます。近代建築の父と云われるル コルビジェ。20世紀初頭からコルビジェの建築はサヴォア邸を始めとし、国内にも上野の国立西洋美術館がありあまりにも有名です。彼の提唱した「近代建築の五原則」とは、1 ピロティ、2 屋上庭園、3 水平連続窓、4 自由な立面、5 自由な平面ですが、これらを表象する建物がモダニズム建築と云われ、現在のコンクリートの箱のようなビルへと変貌して行きます。一方、これら無駄のない合理性だけの追求に半旗を翻したのがポストモダニズムという動きです。筆者がインテリア学校の学生だった1980年代初頭は倉俣史朗氏などが固定概念を覆す素材でソファ等家具を発表し、室内に忽然とピンク色の円柱を配置するなど、ユニークで面白みの有る家具や室内装飾がポストモダンを代表するものなのだと単純に解釈していました。そして近年になってホテルオオクラの改装の話題などから、モダニズムという言葉が一般化し、モダニズムという言葉と同時にポストモダニズムというものも一部正しく認識されるようになりつつあります。ポストモダニズムは国内では菊竹清訓による江戸東京博物館や最近よくテレビなどで目にする象設計集団による沖縄名護市庁舎などがその典型例とされています。

国立西洋美術館

2. 建築と彫刻の話

「建築と彫刻」というテーマに準じ、彫刻について触れてみたいと思います。建築と彫刻は、立体であるという点で共通しますが、それ以外にも昨年の「ARTのある暮らし4」でも取り上げましたが、パブリックアートすなわち「屋外彫刻」の場合は建築と同じように、配置されるランドスケープ(環境)を考慮します。室内で展示される彫刻作品の場合は置かれる場所より、作品そのものの完成度に重きを置いて制作されていると感じます。ライターがボランティア登録をさせて頂いている小平市平櫛田中彫刻美術館で現在、「でんちゅう*ストラット」(〜9月9日まで) が開催されています。この美術館では**モダニズムの建築家大江宏氏設計の平櫛田中氏邸宅も記念館として公開されています。今回のこの企画展では、動物の彫刻家の三沢厚彦さんを含め、美大生等現代作家14名の作品が選ばれ記念館に展示されています。日本の邸宅や古いヨーロッパの宮殿など古い建物に現代アートを配置する企画は、目黒のアールデコ様式の旧朝香宮邸を利用した庭園美術館や谷中の銭湯を改装したスカイ ザ バスハウス、昨年京都二条城での「アジア回廊現代美術展」、フランス ヴェルサイユ宮殿での村上隆の作品の展示など実に様々あります。そこでは、あえて古い建物を利用しそこに現代アート作品を展示、相乗的効果を狙っています。平櫛田中彫刻美術館のこの企画展でも、108歳までこの邸宅で制作を続けた世界最長老の芸術家の邸宅と田中100歳の時に購入した樟(くすのき)が常設展示されていて、そこからインスパイアされ展示された14名の方の現代アート作品の関係性に焦点をあて、担当学芸員篠崎さんにもご協力をお願いし、感じたことを綴りました。
*ストラット 直訳すれば、支柱の意味。庭園に保管された樟とそこに宿る田中の精神等を意味するらしい。
**モダニズムの建築家大江宏氏  大江氏の建築はモダニズムに明瞭に分類される訳ではなく、伝統的な工法による和風建築に対比した場合にこう呼ばれることが多いようです。

小平市平櫛田中彫刻美術館 楠(くすのき)
「でんちゅうストラット」作品展示MAP
作品1. グッド バイブレーション
稲垣 慎
作品2. ramp
the falling woman 木村桃子

 

 

 

作品3. 12の現れた少女たちNo.5 12の現れた少女たちNo.6   棚田康司
作品4. まどろみて  國保彩夏


MAPにあるように庭園を含め記念館をメインに14カ所に作品が展示されました。展示作家の大半がまだ20代の若手作家さん。この方達は、古色蒼然とした、だがしかし完成度の高い平櫛田中の作品や邸宅からどのような印象を受け、そして展示室を決めたのか。「でんちゅうストラット」は昨年夏に続き2回め、夏休みということもあり若手さんによる現代彫刻の展示を企画したとの担当学芸員さんのお話です。その作家さんの中から、2名の方に以下のアンケートをお願いし、ご協力頂きました。
質問1. 今回展示された作品タイトルと素材、制作年について
質問2. 該当作品を今回の展示に選んだ理由
質問3. 平櫛田中彫刻美術館に展示され感じたこと
質問4. 他美術館での展示と比較して感じたこと
質問5. ご自分にとっての理想の美術館とは?
2〜5は自由に思うことを記入して頂きました。

作品1は稲垣 慎さんの作品で、現在東京藝術大学大学院修士課程彫刻家2年に在学中の学生さんで、記念館玄関正面入り口に展示されました。以下、アンケートの回答をご本人の記載内容そのまま引用させて頂きました。(一部加筆修正させて頂いた箇所があります。)
1.タイトル:「グッド バイブレーション」エネルギーに満ちた状態(最初のバイブレーション)
素材:唐鼠黐(とうねずみもち)、樟(くすのき)、彩色
制作年:2018
2.記念館の方のエントランスで展示させていただいているのですが、今回は既に作ったものから選んだというより、展示の場所が決まり、そこからスタートした様な順番です。なので記念館のエントランス特有の段差感や赤いカーペット。奥の壁の平櫛田中の残した文字や印象的な照明と、今回グループ展として、エントランスから中に入って行くと色々な方の作品が展開されている事等々…独特な場の雰囲気との響きを考えながら作ったら今の状態になっていたという感じです。
3.平櫛田中の生活の気配というか、その場所に元からある雰囲気が色濃く残っている場所だと思ったので、そこに新たに何かを展開していくというのはなかなか難しく思いました。
4.先日澤田政廣記念美術館に行ってきたのですが、澤田政廣も木彫の巨匠で、尚且つ裏手には今回の展示で言うストラット的な大きな樟の丸太を立てたものがあったりとか、共通する点もみました。平櫛田中美術館は記念館の方に生活や制作の痕跡が残っていて、特に庭に生えている木の種類が梅や桜等四季の変化が大きいものが多いので、何かそういう変化をみたりした日には平櫛田中本人の目線の様なものをより共有というか、追体験出来るような気分になる要素だと思いました。
5.再来年は東京オリンピックです。今回の展示をする際、平櫛田中美術館や小平市でそこに照準を絞った取り組みが始まっているのをみさせていただきました。日々起こっていく物事に対して良く反応していくというのが非常に大事な要素であるという様に思います。

稲垣 慎 さん

作品2は木村桃子さんの作品
木村桃子さんの作品は<資料室>という普段は来館者用フライヤーや資料が並べられる空間に展示されています。美術館扉から入る通路に面した外部から一番始めに目にすることができる家屋室内です。大きな太い縄状にまず何だろうと興味をそそられます。巨大な三つ編みでその作品の陰には木版に三つ編みにした少女の後ろ姿のレリーフが彫られた作品が並べられていました。木村さんは現在武蔵野美術大学大学院修士課程彫刻コース2年の作家さんです。以下、ご本人の回答をそのまま引用させて頂きました

1. 今回展示された作品タイトルと素材、制作年をお知らせください
タイトル:「 ramp」
素材:樟、油性ペン
制作年:2017年
2. 該当作品をここでの展示に選んだ理由
私が展示している参考室はかつて平櫛田中さんのお孫さん、この小平市平櫛田中彫刻美術館の館長である平櫛弘子さんの部屋でした。
隣接する美術館の入り口から唯一中を覗くことが出来、本や新しい展覧会のフライヤー、ポスターに覆われていたこの部屋は田中さんの生きた場所と現在の彫刻界を繋ぐような場所に感じます。
ramp(傾斜路、スロープのような意味)と題された作品を立て掛け、違う世界ではないけど、少しレベルの違う、段差のある世界観を繋ぐような意味合いを持たせようと考えました。
3. 平櫛田中彫刻美術館に展示され感じたこと
昨年も「でんちゅうストラット」に展示させてもらったのですが、今年は昨年に比べ人数も増え、木を素材にした作品以外の作品もあり大分去年と印象が変わったなと思いました。
昨年は木という素材感と木造の家という結びつきを強く感じましたが今回は彫刻という大きなテーマとでんちゅうさんの存在を考える場になったように感じます。
4. 他美術館での展示と比較して感じたことをご自由にお書きください。
この小平市平櫛田中彫刻美術館は平櫛田中という彫刻家の実際の住居であった場所、というのが最大の特徴だと思います。
他の多くの美術館に対しここは人が暮らして居た空気というか、独特の人間の空気を感じる場所です。
作品の在り方自体がこの場所とどう関わるかという点が大事でホワイトキューブでは出来ない意味合いが生まれると思います。
作品とはその物体だけではなく場所や土地も含めて作品であるという事を認識できる場所でした。
5. ご自分にとって理想の美術館とは?
観る側にとっての理想と展示する側にとっての理想もまた異なるとは思うのですが、作品の新しい観え方が発見できる場所というのはとても魅力的だと思います。
そういったところで今後も展示ができたら嬉しいです。

茶室にあった作品3は棚田康司さんの作品「12の現れた少女たちNo.5」「12の現れた少女たちNo.6」。この邸宅は平櫛田中が98歳の時に小平に移住し建てた邸宅で現在の館長でお孫さんの平櫛弘子さんなど家族との思い出がある家。作品2の木村さんの作品と同じように家族の歴史が静かに蘇ったかのように感じ取れる作品です。私は時々庭園美術館に行くのですが、そこで観た企画展の主旨がアールデコ様式の邸宅とそこに残る記憶の残り香のようなものをテーマにしていることが数回あったことも思い出されました。ホワイトキューブではないこのような美術館の場合は、絵画も彫刻も展示空間との色や形のバランス等外形的なことだけではなく、そこにかつてあっただろう歴史、住んでいた人の想いや気配のようなものがそこから感じられてきます。作品1で稲垣さんが語っていらっしゃるように独特の場の雰囲気や生活の気配を敏感に感じ取りながら制作される作品が場と上手く共鳴し、観る者を感動に導くのでしょう。また、この方の庭園の木々を観る視線が田中氏と同じ彫刻家としての目線で観察されている姿が凄いと感じました。また、田中展示館エントランスの長谷川葉平さんの<パワーショベル>という作品は、ブロンズなどではなく木で制作されている点がとてもユニークな感じがしました。そして4の國保彩夏さんの作品も田中さんの横たわるベッドからのイメージと作家さんの解説にありますが、巨大な昆虫のようでもありちょうど夏の時期に虫取り網を持って昆虫採集をする子供がいるようなイメージが私は浮かびます。他9名の作家さんの作品も其々場を意識して制作または展示されていて、展示空間の重要性を認識させられます。
9月9日最終日には三沢厚彦さんによるギャラリートークも開催される予定です。この機会にぜひ足をお運びになっては如何がでしょう。庭園に緋毛氈を敷いたお茶会や四季折々のイベントもあり、多摩川上水沿いの緑の庭園も美しい美術館です。

3. ARTなスクリーン

1) いそしぎ

https://www.youtube.com/watch?v=uLOADzW9gf0

話題は海外へと移りますが、今回は行く夏を惜しみ、海を舞台にした名作、エリザベス テーラー主演「いそしぎ」(1965) を取り上げたいと思います。1960年代とかなり古い映画ではありますが、エリザベステーラーはリズの愛称で知られ、この映画はテーマ曲と共に有名です。リズと当時夫だったリチャード バートンの共演で自由な心を持つ女流画家と教育者の物語です。このテーマ曲の「シャドウ オブ ユア スマイル」は、今ではポピュラーミュージックの定番となっていますね。夕暮れの海辺のような流麗で清々しいメロディです。この作品の中でエリザベスはシングルマザーの画家を演じ、一人息子の教育を巡って、学校長のバートンと対立しながらも、バートンは自由な心を持つ彼女に惹かれていき、やがて自分も家庭を捨て自由へと旅立って行きます。
エリザベスは実際に父親が画商であり、イギリスからニューヨークへ家族で移住し、ギャラリーを開いたことが、その後のエリザベスの女優としての生活に大きく関わります。60年代の現代アートギャラリーの様子やカリフォルニアの海辺、ストーリー展開など洒落ていて、アートファンにはおススメの映画です。

夕凪

4. 美術展 Pick Up!! 近日終了もあります!!

*三沢厚彦展  〜2018.9.2(日)  横須賀美術館
東京湾と観音崎の自然に恵まれ、風光明媚な立地に建つ美術館。前の京浜ホテルからは海に浮かぶ何艘もの船も見え、異国情緒が漂います。

http://www.yokosuka-moa.jp/exhibit/kikaku/1802.html

*小瀬村真美  〜2018.9.2(日)  原美術館

http://www.haramuseum.or.jp/generalTop.html

*「マルセル デュシャンと日本美術」
2018.10.2(火)〜12.9(日)  東京国立博物館

https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1915

 

FIN.

この記事のライター

aloreライター@新井隆子
子供の頃に家が城下町にあった為、近所にお堀のある公園、その中に城跡や県立美術館があり、美術館好きになりました。中学の頃からNHK日曜美術館ファン。
’70 大阪万博の時、岡本太郎の『太陽の塔』の前の特設ステージで開催されたアジア少年少女合唱際に参加、歌ったことも想い出の一つです。
昔、大学で(社会)心理学、その後インテリア、建築を学び「コワイ」と言われても元から「美術」&「心理学」が好き。

年齢/昭和3?年戌年生まれ。
職業/主婦。ブログライター、リサイクル雑貨アーチスト(1992年頃からatelier Pluie de Couleurを設営)。WEBSHOP経営。

*ハンドメイドのオリジナルブランド”atlier Pluie de Couleur” 公開中。
*リトグラフ、古伊万里、鉄瓶のWEBSHOP “A.Gallery" 経営中。

趣味/美術館やギャラリー巡り。地方の隠れ家美術館の発掘。料理。旅行。ピアノ演奏。映画鑑賞。
資格/英語検定2級。美術検定2級。アートエバンジェリスト認証。
家族/既婚。夫婦+息子1人+トイプードル

都会の心のオアシス「美術館」
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