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「真珠のゆがみ」はどこにある?オランダ絵画はなぜ「地味」か?

「真珠のゆがみ」はどこにある?オランダ絵画はなぜ「地味」か?

大エルミタージュ美術館展

この展覧会は、タイトルとは別に、実は「オールドマスター 西洋絵画の巨匠たち」というサブタイトルがついています。

「オールドマスター」は、直訳すれば「古い巨匠」。美術史上では「古い」とは「17-18世紀」を、「巨匠」とは「17-18世紀にオランダ・フランドル・スペイン・フランスなどで活躍した画家たち」を指します。

また、本展の会場解説では「バロック」、「ロココ」という言葉が頻繁に出てきます。ここで「バロック」とは「17世紀のヨーロッパ美術」のこと、「ロココ」とは「18世紀のヨーロッパ(主にフランス)美術」のことです。

本展では、バロック・ロココの作品群が、イタリア・ルネサンスの作品群とともに、国や地域別に俯瞰的に味わえる構成となっており、解説も非常に分かりやすく書かれています。

期間、場所、入館料

期間;2017/3/18-2017/6/18、場所;森アーツセンターギャラリー、入館料;1600円。

展覧会HP

http://hermitage2017.jp

なぜ「イタリア・ルネサンス」作品が出品されているのか?

本展は「バロック」、「ロココ」作品展であるにも関わらず、最初に「イタリア・ルネサンス」の作品が展示されています。これには理由があります。

そもそも「バロック」とは18世紀に蔑称として美術批評の場で使われた用語です。ポルトガル語で「ゆがんだ真珠」を示す「バロコ(barroco)」に派生しています。

当然ですが、このような用語が出現するということは、「ゆがんでいない真珠」が前提として定義されていなくてはなりません。美術史における「ゆがんでいない真珠」とは、実は、バロックが登場する前の「イタリア・ルネサンス」でした。

徹底的な「理想化(「個性」を排して「最上級」の像を描くこと)」を追求した16世紀の「イタリア・ルネサンス」を「完全」とした上で、「写実性(「個性」を尊重して、できるだけ「そのまま」を描くこと)」を追求した17世紀の「バロック」が、当時からネガティブな印象を持たれていたということは、興味深い事実として挙げられるでしょう。

本展の最初の「イタリア・ルネサンス」作品群を鑑賞してから、「バロック」や、それに続く「ロココ」の作品群を鑑賞すると、「どのような点がネガティブだったのか?」が、非常によく理解できるかと思います。

ルネサンスとバロックの違い;「ヴェルフリンの対比」とは?

19世紀末の美術史家ハインリヒ・ヴェルフリンは、「美術史の基礎概念」(1915)において、ルネサンスとバロックを以下の5つの対概念として把握しようとしました。

  • 線的/絵画的
  • 平面性/奥行き
  • 閉鎖性/開放性
  • 多元性/統一性
  • 絶対的明瞭性/相対的明瞭性

これらは非常に抽象的で、字面だけで意味をイメージするのはかなり難しいと思われます。しかし、本展でルネサンス作品とバロック作品とを実際にご覧になった上で、もう一度この概念を振り返ってみると、おぼろげながらでもその対照性が理解できるのではないでしょうか?

本展の一つ楽しみ方;旧教と新教の違いが作品へどのように反映されているか?

わずか6点のみの出品にとどまっている、最終章のドイツ・イギリス絵画を別にすれば、本展の作品群から受ける印象は「オランダ絵画」のみ若干地味かもしれません。その印象の違いはおそらく「旧教(カトリック)」と「新教(プロテスタント)」の違いに、由来しているのだと思われます。

同じキリスト教ですが、両者の作品から受ける印象の違いは、実際に作品を鑑賞すると非常に顕著です。

旧教国(本展ではオランダ以外)の作品は、非常に「華やか」です。これは歴史上、旧教が「インパクト」のある絵画を通じて、市民に対して、教義(キリスト教の考え方)の普及を図ったからです。

一方で、新教国(本展ではオランダ)の作品は、旧教に比べると「地味」です。歴史上、新教は「市民が自分で聖書を読み、教義を理解する」ことを促進したため、作品における「インパクト」はそれほど重要視されませんでした。

したがって、結果的に新教の絵画の方が、旧教のそれよりも若干地味になったのです。

国や地域ごとの作品を、このような「比較」の観点から楽しむのも、一興かと思います。

おしまいに

本展では、非常に系統だった形で、「バロック」、「ロココ」の作品群が展示されています。

漠然と鑑賞すると、「ふーん、なるほど」で終わってしまうかもしれません。しかし、ある程度「視点」を決めて鑑賞すると、どんどん面白くなってくるかと思います。

ここに書いたものでなくても、何か「視点」を決めて鑑賞してみてはいかがでしょうか?きっと、「収穫」は大きいと思います。

この記事のライター

aloreライターmilkhoppy
<出身>
仙台生まれの東京・川崎育ち。

<所有資格>
アートエバンジェリスト、美術検定2級、教員免許。
 
<意気込み>
「正確なインプットと分かりやすいアウトプット」を、常に心がけ、頑張りたいと思います。
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