AE-Salon Webマガジン「alore(アローア)」

4.『黒衣の花嫁』は「画家のモデル」となり、思いを遂げる 

4.『黒衣の花嫁』は「画家のモデル」となり、思いを遂げる 

-若い女優なんかには負けちゃいられない

今回は無謀にも「初々しくはない」という掟破りのロンドをしてしまいましたが、もう若いとは言えなくなっていた39歳のジャンヌ・モローを寡婦役に起用したトリュフォー監督の映画『黒衣の花嫁』です。往時は、モローが若くないことを第一の理由に、トリュフォー映画としては評価が低く失敗作との評が一般的でした。私も小中学生位の時にテレビ放映でこの作品を初めて観た時には、結婚式の最中に事故(銃の暴発)で新郎を亡くしてしまう新婦を演じるモローの外見に正直多少の違和感を覚えてました。しかし、ある程度の年齢になってからこの映画を観ると、若い女優ではこの新婦の深い哀しみは表現できまい、この年齢のモローこそが最適役だったのではと思えるようになりました。

-「黒衣の花嫁」が日本を訪れると「五辮の椿」に

原作はコーネル・ウールリッチ(ウィリアム・アイリッシュ)で、山本周五郎も時代小説『五辮の椿』(野村芳太郎監督、岩下志麻主演で映画化され、テレビドラマ化も複数回されています。最近再放送された国仲涼子主演のNHKドラマでは、竹中直人が絵師役でした。)という作品に翻案しています。トリュフォーの映画では、銃暴発のトリガーは陽光の風見鶏への反射というトリュフォーらしい洒落っ気を見せ、ヴィヴァルディ音楽の使い方もセンス良く、事故の原因を作った男達のもとをモローが次々に訪れ復讐を重ねていく様は恋愛シーンのようなテイストさえ感じさせてくれます。私は、画家への復讐劇が一番気に入っています。画家のところにモデルになりすましたモローが現れ、途中で画家もモローが偽モデルだと気づくのですが、その時にはモローを気に入ってしまっていて、本物のモデルを追い返してしまうのです。 

-「画家とモデル」という言葉に過剰反応し、やたら脱線しまくる私 

「画家とモデル」という言葉に私はいつもこの映画のシーンを先ず思い浮かべ、それから、次のようなことに思いを馳せます。新海竹太郎(画家ではありませんが)『湯あみ』と橋口五葉『髪梳ける女』が同時期に同じモデルを使い、相手の仕事は早く終わらせてこっちへ来いと二人で競っていたこと(よっぽど湯上りのポーズが艶っぽかったモデルさんだったのでしょう。二人の書面は残っていますが、モデルさんの名前は残っていないようです。)、加山又造とゆふさん、(画文集『ゆふ』が中央公論社より出版されていました。2月の日本橋高島屋での久々の加山又造展では裸婦ゆふさん作品が少なく、もっと沢山観たいよ~モードでした。)、彫刻家佐藤忠良と笹戸千津子さん(彼女は忠良のモデルを務め数々の代表作を産み出すミューズとなりましたが、自身も彫刻家で晩年の忠良をモデルとした作品を残しています)、シャイな性格でモデルが退屈しない様に言葉を掛けるのが苦手で人形をモデルとするようになってしまった鈴木信太郎(生身のモデルで描いた作品は極めて少ないそうです)のエピソード等です。

-ディアーヌ(ダイアナ)から放たれた弓矢の的は

モローがモデルとしてとらされるポーズは本物の弓を持つディアーヌ(ダイアナ)で、復讐方法は多くの方がそのポーズからご想像される通りです。画家のベッドの横壁には裸体のモローが『オランピア』風に描かれていて、モローは復讐を遂げた後、最初はその絵を消そうとするのですが、ある思いつきから消さずに残し、そのトリガーが最後の復讐劇へとつながっていきます。

-同性のシンディをも魅了するモロー

以前、美術アカデミー&スクールでの林先生のコンテンポラリーアートのクラスを受講した時に、シンディ・シャーマンのセルフ・ポートレイトシリーズ作品の画像を沢山見せてもらえました。その中からこれは明らかにジャンヌ・モローを意識しているだろうなと思える作品が私の印象に残りました。

-顔を出さなくても商品になるモロー、低音の魅力

四半世紀程前のことになるかと思いますが、モネ等印象派の画家や美術館を紹介する日本のテレビ特番の進行役をモローはよく務めていました。その番組が字幕だったか吹替だったかは忘れてしまいましたが、モローの知的な低音は実に魅力的です。プーランク作品のナレーションを務めたクラシック音楽CD、マルグリット・デュラス(モローには彼女を演じた映画もあります)について語っているラジオ番組のCD化もあります。(当然、我が家には全て揃ってます。これだからゴミ屋敷になってしまう訳です…)

-放たれる次回へのロンド

私がモローについて綴りながらも、不朽の名作『突然炎のごとく』にロンドしないなんて、自分でもびっくりですが、次回はディアーヌ(ダイアナ)の弓矢をロンドとして、ジャン・コクトーによる映画『美女と野獣』を取り上げます。

この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
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