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〜第5回〜西洋美術の鑑賞に役立つ聖書のお話

〜第5回〜西洋美術の鑑賞に役立つ聖書のお話

“ダビデ”という名前を聞いて思い出されるのは、逞しい肉体を誇るミケランジェロ作のダビデ像でしょうか。ドナテロ作の華奢な美少年といった風情のダビデ像の方がお好きな方もいるかもしれませんね。

12の部族に分かれていたイスラエルの民をまとめ上げ、紀元前993年に統一イスラエル王国の玉座についたダビデ王。名君といわれたダビデの影響は、1000年後に現れるイエス・キリストの系譜にまで及びます。イエスを“ダビデの子”ということがありますが、これは「救世主はダビデの子孫から生まれる」という信仰によるものです。
また、17世紀に発案されたユダヤ教の印である六芒星(ヘキサグラム)は別名“ダビデの星”。ダビデの星は現在のイスラエルの国旗にも描かれています。

多くの美術品にもその姿をとどめ、現代にまで名を残すダビデ王。名画とともに、ダビデの波乱の人生を紐解いていきましょう。

士師サムエル、ダビデを見出す

パオロ・ヴェロネーゼ《ダビデの塗油》(1550 – 1560、美術史美術館、ウィーン)
パオロ・ヴェロネーゼ《ダビデの塗油》(1550 – 1560、美術史美術館、ウィーン)

強敵ペリシテからの執拗な攻撃と、異教神信仰の広がりで危機的状況にあったイスラエルの民。部族を統一するため、士師サムエルは神の導きでサウルという若者をイスラエルの王にします。しかし、サウルの心が神から離れてしまったため、サムエルは新たな神託により、ベツレヘムの羊飼いダビデ少年を見出します。ダビデはサウル王に気に入られて一時は王の側に仕えていましたが、その人柄で人望を集めてしまうダビデに嫉妬したサウル王から謀反を疑われ始め、王宮を出て羊飼いに戻りました。

ダビデの鮮烈なデビュー戦 VS ゴリアテ

やがて、ペリシテ軍が巨人ゴリアテを先頭にイスラエルへ攻め込んできました。
「我と一騎打ちする勇者はおらぬか!」と大音声に呼ばわるゴリアテを恐れて、イスラエル軍の兵士は身動きがとれません。膠着状態が続くこと40日。しびれを切らして立ち上がったのが、羊飼いに戻っていた少年ダビデ。
お前のような小童に何ができると鼻で笑うサウル王に、「私は羊を守るためにライオンやクマを倒してきたから大丈夫。私には神がついている」とダビデはなおも食い下がります。
根負けしたサウルが兜や鎧を提供しようとしますが、それも断って、ダビデは片手には羊飼いの杖を、もう片方の手には石を入れた袋を提げてゴリアテの前に進み出ました。
どう見てもダビデ劣勢の状況に周囲が固唾を飲んで見守る中、勝負は一瞬で決まりました。
ダビデが投じた石が眉間に当たってゴリアテが昏倒。ダビデはすかさずゴリアテの剣を抜き取り、首を切り落としてしまいました。
ペリシテ軍は慌てて敗走。イスラエルを勝利に導いたダビデは民衆から喝采を浴びます。

ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオ 《ゴリアテの首を持つダビデ》(1606 – 1607年、ボルゲーゼ美術館、ローマ)
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジオ 《ゴリアテの首を持つダビデ》(1606 – 1607年、ボルゲーゼ美術館、ローマ)

闇の中に浮かび上がる、巨人ゴリアテの首を持ったダビデ。バロック絵画の巨匠カラヴァッジオの迫力ある一枚。ゴリアテの顔のモデルはカラヴァッジオ本人なんだとか。

雌伏10年の末に

「サウルは千を討ち、ダビデは万を討った」と讃える民衆の声に、サウル王の心に再び嫉妬の火がつきます。
サウル王はダビデを殺すよう命令を出しましたが、ダビデを慕うヨナタン王子に助けられ、ダビデは無事に逃げおおせることができたのでした。

レンブラント・ファン・レイン《ダビデとヨナタン》(1642年、エルミタージュ美術館、サンクトペテルブルク)
レンブラント・ファン・レイン《ダビデとヨナタン》(1642年、エルミタージュ美術館、サンクトペテルブルク)

やがてペリシテとの戦いの中でサウルは戦死。ダビデの味方だったヨナタンも討たれてしまいました。

イスラエルに帰ってきたダビデは皆に推されてユダ族の王となり、やがて部族を統合して統一イスラエル王国を建国。この時ダビデ30歳。民族統一の宿願を果たしたダビデは宿敵ペリシテを攻撃し、一気に領土を拡大しました。

およそ40年の間、強い信仰心と穏やかな性格でイスラエルを統治したダビデ王。しかしどんなに名君といわれた男でも、過ちの一つや二つは犯すもので、聖書はダビデの英雄としての姿だけではなく、彼が犯した人間臭い過ちについても語っています。

そんなダビデの罪のお話は、また次回。

この記事のライター

aloreライター橘高あや
千葉県在住。アートエバンジェリスト。美術検定2級。楽しい美術鑑賞の伝道師を目指して精進中。
得意分野は浮世絵と宗教画。絵画から物語を読み解くことが好き。
趣味は読書と料理、御朱印集め。
好きな言葉は温故知新と不易流行。古きものも新しきものも、一時の流行からも学び取り面白がれる人間が理想。
アートは心を、人生を豊かにしてくれます。作品との対話は自分との対話。思いもつかないような多種多様な表現と出会い、それに対する自身の反応から、自分に対する新たな発見を得ることができます。異なる価値観を知り理解することは、他人への理解や許容につながります。アートと付き合っていると、自分にも人にも優しくなれる気がするのです。閉塞感に苛まれる現代社会をアートの力で変えていけたら。そんな思いでおります。
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