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ARTのある暮らし6 私が選んだ ”悲痛な?絵”

ARTのある暮らし6 私が選んだ ”悲痛な?絵”

私が選んだ ”悲痛な?絵”

ベストセラーの本「怖い絵」が展覧会になり、今上野の森美術館で<怖い絵展>として開催され、初日から行列が出来ています。
様々な「怖さ」がありますが、このaLoreブログの中でもお化けの絵をテーマにしたものなどはアクセス数も多く、毎年夏は怪談話が定番。一方「怖い絵」の「怖さ」は社会のひずみやいじめから悲劇的な運命を辿ることになる話など。結末は必ず自死や処刑。人の恨みや怨念、心の奥深い部分に巣食うネガティブな感情。「四谷怪談」などは江戸時代、主人と近所の後妻が妻をいじめ殺した実話を元に書かれたとあり、怪談話となり幽霊まで登場するのでとても怖い。
私は ”悲痛な” 絵を探してみました。作品の中に挫折や絶望感が見て取れる作品たち。後世に残る私達に様々な疑問や謎を残す作品の数々。何か自分なりのテーマを元に絵画選びをしてみるのも鑑賞が深まる一つの方法かもしれません。
終わりには、都内ですが、旬なアート情報を載せています。最後までお付き合い下さいね。

1. <死と乙女>エゴンシーレ(Egon Schiele)
2. <シーグラム壁画>マーク ロスコ(Mark Rothko)
3. <泣く女>パブロ ピカソ(Pablo Picasso)
4. 新国立競技場案 ザハ ハディド(Zaha M. Hadid)
5. 今、観たい美術展

1. <死と乙女>エゴン シーレ (Egon Schiele)

中野京子著「怖い絵」にも選ばれたエゴン シーレ(1890ー1918)の<死と乙女>。また、私もこの作品を選びました。
骸骨のようにやせ細った男にしがみつく女。今にもちぎれそうな細い腕で男を抱きしめています。
<死と乙女>はタイトルのまま、昨年オーストリアで映画が制作され、今年国内で上映されました。エゴン シーレはオーストリアの画家で、クリムトと同じウィーン分離派の画家の一人。あのヒトラーが不合格を繰り返したウィーン美術アカデミーに進学、才能に秀でた画家でした。クリムトにも認められ、彼に紹介されたヌードモデル、ヴァリ ノイチェルと同棲し、彼女をモデルに様々な作品を残しました。作品が猥褻物をテーマにしている作品とみなされ、 警察に24日間勾留されたこともあるシーレ。その後、ヌードモデルを長年勤めたヴァリとの関係を断ち切って、エーディットという向かい側に住む?!中産階級出の女性を選んで結婚したシーレ。シーレとの別れはどれほど深くヴァリの心を傷つけたことでしょう。ヴァリはその後、従軍看護婦を志願し当時流行っていたスペイン風邪で派遣先で亡くなりました。シーレはエディットと結婚し、作品も認められた栄光の道半ばで、ヴァリと同じスペイン風邪で亡くなりました。妻エディットもその直前シーレの子供を宿したまま、同じ病で亡くなっています。<死と乙女>は別れる前のヴァリとシーレ自身を描いた作品です。
猥褻な画家と云われたエゴン シーレを私は女性ファンから教えられました。そして、退廃と哀愁漂う作風がより女性の共感を呼ぶのも不思議です。

2. <シーグラム壁画> マーク ロスコ(Mark Rothko)

ロシア系ユダヤ人のアメリカの画家マーク ロスコ (1903ー1970) は大画面に描くことを一つの特徴とするアメリカ抽象表現主義の代表的画家です。ここで取り上げた<シーグラム壁画>は1958ー1959年の作品で、シーグラムビルの高級レストラン ザ フォー シーズンズの壁を飾る予定でした。ザ フォー シーズンズは、日夜着飾った男女が華やかに食事をする場所でした。ロスコが契約を破棄し作品の引き渡しを拒否した為、現在はロンドンのテートモダン、ワシントンD.C.のナショナル ギャラリー オブ アート、そして日本のDIC川村記念美術館の3カ所に別れて収蔵されています。
何故、ロスコが一方的に契約を破棄したのか、様々な憶測が今も飛び交います。そののちの晩年、彼はヒューストンのセント トマス大学構内の無宗教の礼拝堂のための絵画作成を依頼され、そこでもザ フォー シーズンズ ホテルで確執のあった設計者フィリップ ジョンソンと再び衝突し、設計者が変わるも1971年の完成を待たずにその前年、抗うつ剤を大量に服用し自らの腕をカミソリで滅多切りにして66歳で自死します。
<シーグラム壁画>を依頼された当時、時代の寵児とも云われ、抽象表現主義がもてはやされた時代に依頼された仕事を破棄してまでロスコが云いたかった事。かれは芸術の華美な装飾性や形だけの追求を否定する言葉も多く残しています。また、「悲劇、忘我、運命といった人間の基本的な感情を表現することだけに関心がある」とも述べています。制作中、フィレンツェのサン ロレンツォ教会を訪れ、ミケランジェロの手による図書館入り口ホールについて彼は語っています。そこは、まさに彼が求めていた聖なる閉め切られた空間で天井近くに光差す高窓があるだけ。<シーグラム壁画>に描かれているのは、形の似たその高窓だと云われています。

3. <泣く女> パブロ ピカソ (Pablo Picasso)

<泣く女>1937
(出典)<ピカソ 生涯と作品>松田健児著 2006刊 東京美術

泣くという奇抜なモティーフの女性の顔。この作品が制作されたと同年の1937年、ピカソ (1881ー1973) はあの有名な<ゲルニカ>を制作しています。スペイン内戦を描いたゲルニカとほぼ同時期に彼は<泣く女>を数点制作しています。この暖色系が多用された鮮やかなコントラストの<泣く女>は当時の愛人ドラ マール (1907-1997) をモデルとした作品で、ドラ マールはシュールレアリスムの写真家でユダヤ系の血筋を持ち、当時のファシズムに対する左翼的な活動家とも交流がありました。
また、ピカソには当時もう一人フランソワーズ ジローという愛人がおり、2人はピカソのアトリエで対面、激しい対立もあったようです。ドラ マールは感情をあらわにするタイプの女性でそれをモティーフとしてピカソは制作しています。ただし、ピカソ本人の葛藤や苦悩だけではなく、当時の世界的な状況やそこに置かれた人間の運命など根源的な悲劇を<泣く女>は表現しています。
ドラ マールは政治的信念を持つ女性で、ピカソをフランス共産党へ入党するよう説得し、ピカソはは死ぬまで党員であり続けました。

4. <新国立競技場案>ザハ ハディド (Zaha M. Hadid)

最後に絵画ではありませんが、常日頃建築はアートだと感じているので、女性建築家ザハ ハディドの惜しくも廃案となった<新国立競技場案>をとりあげます。
ザハ ハディドの設計はその複雑すぎる構造から(下記画像参照)本人は<アンビルドの女王>とも呼ばれ、技術の粋を集め、ようやくここ数年、彼女の作品が実現化されるようになりました。
すでに遠い記憶となったかもしれない2015年のハディドによる<新国立競技場案>。2520億円という巨額の建築費を巡って大揺れに揺れ結局白紙撤回となりキャンセル料も莫大、その後まもなく本人は65歳でマイアミの病院で心臓発作のため亡くなりました。
実現不可能と云われていたザハ ハディドの案を安藤忠雄氏が推薦、当時マスコミを賑わせていましたが、ハディドさんが亡くなり、安藤さんもしばらくマスコミから姿が消えていました。今年、国立新美術館開館10周年を記念した<安藤忠雄展>レセプションでお元気な姿で登壇され、ほっとした建築ファンも多かったのではないでしょうか?
まだ、65歳という年齢からまだまだ後世に素晴らしい作品を遺されたであろうハディドさんの死と<新国立競技場案>。死は廃案と無関係とは思えず、またこれも様々な疑惑と共に蘇ります。実現していたならば、丹下健三氏による代々木オリンピック競技場と共に後世への素晴らしい遺産となったかもしれません。

参考 <GA DOCUMENT> 99 ZAHA HADID
(出典)<GA DOCUMENT>特別号99 ザハ ハディド 二川幸夫編集 2007.10発行

5. 今、行くべき?美術展

運慶展 東京国立博物館

過去最大規模の運慶をメインとする仏像彫刻の展示。彫刻としてまた新たに評価も高まり、展示方法も斬新で現代アートと賞賛する人もいます。
http://unkei2017.jp/

草間彌生美術館

国際的に評価の高い草間作品だけを集約した美術館が、10月1日に都内で開館されました。草間ワールドを思いっきり堪能できます。
入れ替え制で年内は予約が満席。
http://yayoikusamamuseum.jp/

FIN.

この記事のライター

aloreライター@新井隆子
子供の頃に家が城下町にあった為、近所にお堀のある公園、その中に城跡や県立美術館があり、美術館好きになりました。中学の頃からNHK日曜美術館ファン。
’70 大阪万博の時、岡本太郎の『太陽の塔』の前の特設ステージで開催されたアジア少年少女合唱際に参加、歌ったことも想い出の一つです。
昔、大学で(社会)心理学、その後インテリア、建築を学び「コワイ」と言われても元から「美術」&「心理学」が好き。

年齢/昭和3?年戌年生まれ。
職業/主婦。ブログライター、造形作家(1992年頃からリサイクル雑貨制作atelier Pluie de Couleurを設営)。過去、公民館生涯学習部、手作り教室等で講師の経験があります。

*ハンドメイドのオリジナルブランド”atlier Pluie de Couleur” 公開中。
*リトグラフ、古伊万里、鉄瓶のWEBSHOP <A.Gallery>経営中。

趣味/美術館、ギャラリー巡り。地方の隠れ家美術館の発掘。旅行。ピアノ演奏。料理。映画鑑賞。
資格/アートエバンジェリスト認証。美術検定2級。英語検定2級。
家族/既婚。夫婦+息子1人+トイプードル

都会の心のオアシス「美術館」
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