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〜第9回〜西洋美術の鑑賞に役立つ聖書のお話 新約聖書篇②クリスマスの夜に

〜第9回〜西洋美術の鑑賞に役立つ聖書のお話 新約聖書篇②クリスマスの夜に

いつのまにか日本の文化に入り込んでいたハロウィンの喧騒も落ち着き、気の早いことに街中ではクリスマスのイルミネーションが点灯し始めましたね。
クリスマスはイエス・キリストの降誕を祝うお祭り。今回はイエス誕生の物語を名画とともにみていきましょう。

羊飼いたちが祝う静かな夜

マリアの処女懐胎という奇跡からしばらく後。
ローマの全領土の住民に、故郷で戸籍登録をせよと御触れが出ます。
マリアとヨセフが住んでいたのは、ガリラヤのナザレという土地でした。ヨセフはユダヤのベツレヘムという町(ダビデ王の生誕地でもある)の出身者だったので、身重のマリアを連れて故郷へ旅立ちます。
二人は長い道のりを経てようやくベツレヘムに到着しましたが、戸籍登録のために押し寄せた人々でどこの宿屋も満室状態。宿が取れず途方に暮れるヨセフとマリア。やっとの思いで借りることができたのは、宿屋の持つ粗末な馬小屋でした。馬小屋で体を休めていると突然マリアが産気づき、男の子を出産。生まれた赤ん坊を布で包み、飼い葉桶に寝かせました。
その夜、星空の下で羊の番をしていた羊飼いたちの目の前に天使が現れ、救世主の誕生を告げます。羊飼いたちはすぐさまベツレヘムを訪れ、乳飲み子イエスを見つけ出し、喜びに沸いたのでした。

コレッジョ 《羊飼いの礼拝 (ラ・ノッテ)》(1522 - 1530 アルテ・マイスター絵画館、ドレスデン)
コレッジョ 《羊飼いの礼拝 (ラ・ノッテ)》(1522 – 1530 アルテ・マイスター絵画館、ドレスデン)

本作はルネサンス期に北イタリアのパルマで活躍したコレッジョの傑作の一つ。見事な夜の描写から「ラ・ノッテ(夜)」の愛称で親しまれました。
飼い葉桶の中で神秘的な光を放つ赤ん坊のイエス。それを愛おしげに抱き寄せるマリア。マリアの後ろにいる髭の男性がヨセフでしょうか。画面左には、駆けつけた羊飼いたち。村娘は赤ん坊のあまりの神々しさに手をかざします。そして、彼らの頭上には天使たちが。

イエスの伝記的書物である福音書は4人の筆記者がおり、それぞれに矛盾した記述があったり、違うことが書いてあったりします。
救世主降誕の奇跡の目撃者を羊飼いに設定したのはルカでした。
一方、マタイは別の物語を書き綴っています。

東方の三博士

マタイによれば、イエスが生まれたのはヘロデ王(ヘロデ・アンティパスの父)の時代であるとのこと。「未来のユダヤの王(救世主)が生まれた」という星の知らせを受けて、遠く東の方から占星術の博士たちがエルサレムを訪れます。
「ユダヤの王として生まれた方はどちらにおられますか。ぜひ拝ませていただきたい」という博士たちの言葉を聞いて、ヘロデ王は不安になります。これは自分の地位を揺るがす政変の前触れではないか、と。
「古い予言によれば、その子はベツレヘムにいるはずだ。その子を見つけたらすぐ知らせてほしい」
その子を殺すつもりだから、という言葉は腹に収め、ヘロデ王は博士たちを送り出しました。
星の導きでベツレヘムにやってきた博士たちは、幼子イエスと対面を果たし、“権力を持つ王”を意味する黄金と“神性”を意味する乳香、そして“死ぬ運命を持つ人間”を意味する没薬を贈り物として捧げました。目的を果たした博士たちは、ヘロデ王の元へ戻ってはいけないという夢のお告げに従い、別の道を通って自分たちの国へ帰って行きました。

ピーテル・パウル・ルーベンス 《東方三博士の礼拝》(1628-1629、プラド美術館、マドリード)
ピーテル・パウル・ルーベンス 《東方三博士の礼拝》(1628-1629、プラド美術館、マドリード)

イタリアでの修行から帰ってきたばかりのルーベンスが手がけたこの作品は、アントウェルペンの経済的発展を願って、市庁舎の大会議場に掲げるために制作されたものでした。
コレッジョの作品に比べると、まあ大勢で押しかけてきて賑やかなこと。
やってきた博士の人数は聖書には明記されていませんが、贈り物の数から3人とされています。ルーベンスの絵には取り巻きの人間が多すぎてごちゃっとしていますが、イエスの前に跪き贈り物を渡している人物、赤い衣服を身につけて中央に立つ白髭の老人、青いマントを羽織りターバンを頭に巻いた黒人男性、おそらくこの3人が東方の三博士なのでしょう。
3人の博士はそれぞれメルキオール、バルタザール、ガスパールという名前がついています。老人、壮年、青年であり、アジア人、ヨーロッパ人、アフリカ人を表していますが、誰がどの年齢層でどこの大陸の人かは絵によってまちまちです(メルキオールが黄金を持った老人で表され、イエスに一番近いところにいるパターンが多いようです)。

占星術の博士(マギ)は、星の運行や月の満ち欠けなどの天文現象を観測し、農業に必要な気候の情報を提供したり、空の異変から天変地異を予測したりするのが仕事です。一方、自然の中で暮らす羊飼いたちも、生きる知恵として星を読む術を持っています。どちらも星にご縁のある人たちでした。
天界と地上を結ぶドラマティックな物語の演出に、福音書筆記者の個性が出ているのが興味深いところです。

この記事のライター

aloreライター橘高あや
千葉県在住。アートエバンジェリスト。美術検定2級。楽しい美術鑑賞の伝道師を目指して精進中。
得意分野は浮世絵と宗教画。絵画から物語を読み解くことが好き。
趣味は読書と料理、御朱印集め。
好きな言葉は温故知新と不易流行。古きものも新しきものも、一時の流行からも学び取り面白がれる人間が理想。
アートは心を、人生を豊かにしてくれます。作品との対話は自分との対話。思いもつかないような多種多様な表現と出会い、それに対する自身の反応から、自分に対する新たな発見を得ることができます。異なる価値観を知り理解することは、他人への理解や許容につながります。アートと付き合っていると、自分にも人にも優しくなれる気がするのです。閉塞感に苛まれる現代社会をアートの力で変えていけたら。そんな思いでおります。
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