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〜第12回〜西洋美術の鑑賞に役立つ聖書のお話 新約聖書篇⑤奇跡のはじまり

〜第12回〜西洋美術の鑑賞に役立つ聖書のお話 新約聖書篇⑤奇跡のはじまり

洗礼者ヨハネが捕らえられ、サロメの舞いの褒美として首を取られたその頃。
新約聖書の主人公イエスはどうしていたのでしょうか。
イエスがヨルダン川でヨハネから洗礼を受けた後に話を戻しましょう。

洗礼を受けたイエスはヨハネ同様、荒野での苦行を開始しました。
岩と砂の大地で、たった一人、四十日間の断食を行うという修行でした。
修行を始めると、イエスのもとに悪魔が現れ様々な誘惑を仕掛けてきました。
悪魔の誘惑との戦いは自分自身の欲や弱さとの戦いでした。
「サタンよ、退け。私はお前を拝まない。主なる神のほか、私はいかなる神にも仕えない」
悪魔の誘惑を退けたイエスは、富を捨て家を捨て、家族への執着を捨て、自分の命をも惜しまず神に仕えることを改めて覚悟しました。

弟子たちとの出会い

洗礼者ヨハネが捕らえられた後、イエスはヨハネの教団から離れ、単身布教活動を始めるべくガリラヤに向かって旅立ちました。

ガリラヤ湖岸の漁村にやって来たイエスは、漁師のシモン(後のペテロ)とアンデレの兄弟に出会います。
魚が捕れず落胆していた二人に、イエスは「沖で漁をしなさい」と声をかけます。イエスのアドバイスに半信半疑の気持ちで従ってみると、投網が破けそうなほどの大漁になりました。漁師仲間の別の船が助けにやって来て、ようやく岸に引き上げることができました。
(この時捕れた魚は黒スズメダイの一種で、ペテロの魚セント・ピーター・フィッシュとしてガリラヤ湖の名物になっています)

イエスの言葉を疑ったことを恥じ、「私は罪深きものです」とひれ伏したシモンに、イエスはこう呼びかけます。
「私について来なさい。あなたがたを、人間をとる漁師にしてあげよう」
すると、シモンとアンデレ、そして漁師仲間のヤコブとヨハネ兄弟の4人が、直ちに全てを捨ててイエスの最初の弟子になりました。

こうして、イエスと弟子たちの布教の旅が始まりました。

ピーテル・パウル・ルーベンス《奇跡の漁り》( 1618 - 1619 , ナショナル・ギャラリー ,ロンドン)
ピーテル・パウル・ルーベンス《奇跡の漁り》( 1618 – 1619 , ナショナル・ギャラリー ,ロンドン)

バロック絵画の巨匠、ルーベンスの一作。画面中央、船の舳先に立ち白い衣を着た男性がイエス、それに向かい合う片肌を脱いだ男性がシモン(ペテロ)でしょうか。シモンがイエスを疑ったことを詫びているようにも見えます。
本作をもとにしたスヘルテ・ア・ボルスヴェルトによる版画が、国立西洋美術館に収蔵されています。

カナの婚宴

イエスは布教活動の道中、数々の奇跡を起こして人々を驚かせ、魅了していきました。
イエスが公衆の前で行った最初の奇跡といわれているのが、イエスと弟子たちが招かれた婚礼の宴での出来事でした。

カナという土地の農家の結婚式に出席したイエスは、そこで母マリアと居合わせました。
ガリラヤ地方の習慣では、祝宴の宴は七日間ほど続き、ひっきりなしにやってくる客にぶどう酒を振る舞い続けます。
ぶどう酒の大樽が空っぽになってしまったのを見たマリアがそのことをイエスにそっと告げると、イエスは「婦人よ、それが一体、私とどんな関わりがあるというのですか」と答えました。
そんなつれない息子に、しかし母は何かを感じ取ったのでしょうか、マリアはさりげなく召使いに「この人が何か言いつけたら、その通りにしてくだい」と根回しをしておきました。
しばらくして、イエスはお清め用の6つの水瓶に水を満たすように召使いに指示しました。召使いたちがそれに従って水を汲み、宴会の世話役のもとへ水瓶を持っていくと、水瓶の中の水は上等なぶどう酒に変わっていたのでした。
何も知らない世話役は、ぶどう酒を味見して驚き、花婿にこう言いました。
「いやぁ、初めに良いぶどう酒を出して、客の酔いが回った頃に劣ったものを出すのが常ですが、あなたは良いぶどう酒を今まで取っておかれたのですね!」

パオロ・ヴェロネーゼ《カナの婚宴》 (1562 - 1563、 ルーヴル美術館、パリ)
パオロ・ヴェロネーゼ《カナの婚宴》 (1562 – 1563、 ルーヴル美術館、パリ)

本作はルネサンス期のイタリアで活躍した巨匠ヴェロネーゼの代表作の一つ。
画面中央、赤と青の衣を着てテーブルに着いているイエス。頭には光輪が輝きます。こちらから見てイエスの左に座る女性が母マリア。マリアにも控えめながら光輪がついています。
右下では、水が入っていたはずの瓶からぶどう酒が出てきています。グラスに入ったぶどう酒をしげしげと眺めているのは、この宴の世話役の男でしょうか。

この出来事を皮切りに、イエスは人々の前で次々と奇跡を起こしていきます。
イエスは神の愛と許しについて人々に語りかけましたが、当時の人々を惹きつけた最大の要因は、目の前であらゆる病を癒したり罪人を改心させたりといった奇跡を起こしたからであったことは否定できないと思います。
次回は、イエスの布教活動と奇跡の物語について見ていきましょう。

この記事のライター

aloreライター橘高あや
千葉県在住。アートエバンジェリスト。美術検定2級。楽しい美術鑑賞の伝道師を目指して精進中。
得意分野は浮世絵と宗教画。絵画から物語を読み解くことが好き。
趣味は読書と料理、御朱印集め。
好きな言葉は温故知新と不易流行。古きものも新しきものも、一時の流行からも学び取り面白がれる人間が理想。
アートは心を、人生を豊かにしてくれます。作品との対話は自分との対話。思いもつかないような多種多様な表現と出会い、それに対する自身の反応から、自分に対する新たな発見を得ることができます。異なる価値観を知り理解することは、他人への理解や許容につながります。アートと付き合っていると、自分にも人にも優しくなれる気がするのです。閉塞感に苛まれる現代社会をアートの力で変えていけたら。そんな思いでおります。
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