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「すずバス」でめぐる奥能登国際芸術祭(後編)

「すずバス」でめぐる奥能登国際芸術祭(後編)

石川県珠洲市で開催中の奥能登国際芸術祭。今回は、作品案内バス「すずバス」で私が2日目午後に回ったCコースと3日目午前に回ったBコースの作品の中から、特に印象に残ったものをご紹介します。

「タイムトリップ・・・?」どこか懐かしいCコース

Cコースは街の中の作品からスタート。舞台は2年前に廃業してしまった銭湯「恵比寿湯」の建物です。見上げれば木造の趣ある破風、中には高い天井や木製のロッカーがそのまま残されています。女湯の展示は、井上唯『into the rain』。脱衣所と浴室の空間を埋めるように、海や山、田園などを思わせるパターンが描かれた布が何枚も張られています。私は日頃からよく銭湯に癒されているので、大自然と銭湯の力を重ね合わせたこの作品にとても共感。残念ながらその歴史に幕を閉じてしまった銭湯が明るくやさしい空気に包まれていることも、嬉しかったです。

「恵比寿湯」と『into the rain』
「恵比寿湯」と『into the rain』

珠洲の伝統的な産業である塩づくり、その塩を古民家の内部一面に敷き詰めて海を表現した大作が、岩崎貴宏『小海の半島の旧家の大海』。使われている塩の量は約2トンにおよぶそうで、数十センチもの厚さに積み重ねられています。表面には枯山水のような波模様が描かれた部分も。結晶がキラキラと光る塩の水面に浮かんだ小さな船にも目を惹かれ、迫力と繊細さが同時に心に残る作品です。

『小海の半島の旧家の大海』
『小海の半島の旧家の大海』

Cコースでは最後に、2005年に廃線になってしまった「のと鉄道能登線」の始発・終着駅であった旧蛸島駅近くの作品を回ります。ねじ曲がったような形のカラフルなトンネルは、トビアス・レーベルガー『Something Else is Possible/なにか他にできる』の一部。ここから駅のホームに向かって線路を歩いていきます。能登線の廃線はこの土地に住む方々の暮らしに大きな影響をおよぼしたそうで、その大変さは正直想像がつきません。それでも、線路の終点が同時に始点でもあるように、今や遺構となったこの駅から始まる何かもあるのかもしれない、と感じさせられます。車止めの先に立てられたポップでポジティブなネオンサインは、朽ちた線路や草むらに不思議となじんでいるように見えました。

『Something Else is Possible/なにか他にできる』
『Something Else is Possible/なにか他にできる』

かつての銭湯や古民家、鉄道など暮らしの中にあった建物や施設を多く回るCコース。当時の賑わいを想像するとせつない気持ちになりますが、そこに残る記憶を大切にしつつ、新たな希望のようなものを感じさせる作品が多かったです。

「目も足もフル稼働!」盛りだくさんのBコース

最終日に参加したBコースでは、Cコースにも登場した「のと鉄道能登線」の施設を使った作品を数多く回ります。最初に訪れるのは、河口龍夫『小さい忘れもの美術館』。バッグや洋服、うちわなどの忘れ物が残された、旧飯田駅の待合室。外に出てホームへ向かう道には、傘がぽつんぽつんと立っています。青いコンテナの内部の壁には、かつて駅にあった伝言板を思わせる黒板。いわゆるレトロな可愛らしさもある作品なのに、誰かの、もしくは何かの「気配」が感じられて身体がぞわっとする瞬間があり、そこに惹きつけられます。

『小さい忘れもの美術館』
『小さい忘れもの美術館』

ラックス・メディア・コレクティブ『うつしみ』は、旧上戸駅の駅舎の上に、まるでその分身のようなオブジェが浮かぶ作品。そして旧鵜飼駅で長い蛍光灯に貫かれた一両の列車は、アデル・アブデスメッド『ま-も-なく』。これらの作品は夜ライトアップされているとのことで、ぜひ見てみたかった・・・!

『うつしみ』
『うつしみ』
『ま-も-なく』
『ま-も-なく』

能登線周辺以外にも印象的な作品はいろいろ。そのひとつが、眞壁陸二『青い舟小屋』です。海辺に佇む小屋の中は、濃淡やテクスチャーの異なるさまざまな青が張り巡らされた空間。細い一片ずつに珠洲の自然、土地の記憶や物語が描かれています。

『青い舟小屋』
『青い舟小屋』

また、飯田地区の街の中の作品で特に圧倒されたのが、吉野央子『JUEN 光陰』。かつてのスナックを舞台に架空の物語が展開していく設定なのですが、各部屋に登場する海の生物たちの彫刻がすごい迫力!カウンターの宙を舞う魚たちに始まり、飛び出してくるように見える鰯の群れ、円を描いて泳ぐイカ、巨大なカニなど、それぞれ作り方や見せ方が異なり、展示に趣向を凝らした水族館のようでとても見応えがありました。

『JUEN 光陰』
『JUEN 光陰』

さまざまな形の「廃線アート」を鑑賞できるCコースは、全コースの中で最も多い13作品を回り、さらに観光名所の見附島も見られる充実した内容。ただ、最後の飯田地区で4つの作品をすべて見るにはかなり急いで回る必要があるので、その点だけは心してお出かけください。

「すずバス」の良さ、珠洲の良さ

「すずバス」のおかげで、イベントなどを除いたほぼ全展示にあたる36作品を鑑賞することができました。ひとつひとつの作品の鑑賞時間は短いですが、とにかく快適で安心!また楽しい解説をしてくださる地元のボランティアガイドさんたちは、親切なかたばかりでした。個人的にちょっと困っていた時に助けていただいたりして、本当にありがたかったです。

初めて訪れた珠洲は、アート以外にもたくさんの魅力がある場所でした。とにかく海が身近にあり、北側では日本海らしい岩場、そして南側では白い砂浜と、趣の異なる景色を楽しめます。また今回は体験できなかったのですが、キリコ祭りやヨバレなど興味深い文化もいろいろ。珠洲

そして最後に・・・、これから一人旅を始めてみたい方に、奥能登に限らず地方の芸術祭はおすすめです!自然豊かな場所を気軽に訪れることができ、特に会期中は交通の便も良いので安心して動けます。性別や世代を問わず一人旅のかたは多いです。私は今回泊まった宿でたまたま、それぞれ一人旅をされている女性おふたりと3人で話す機会に恵まれました。昼間見た作品の感想や他の芸術祭のことなど、初対面なのに時間を忘れて話し込んでしまうほど楽しかったです。

アートと人、土地と人、そして人と人をつないでくれる芸術祭。ぜひ多くのかたにその魅力を知っていただけたらと思います。

この記事のライター

aloreライターノムラシマ
ネコと銭湯と焼肉をこよなく愛するコピーライター。
現代アートが好きで、美術館のほか芸術祭にもときどき出没。ひとり暮らし歴約15年。
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