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5.『美女と野獣』「昼と夜」の絶妙な転換

5.『美女と野獣』「昼と夜」の絶妙な転換

-故池田万寿夫、その多才振りの元祖はコクトーか 

今回は「20の顔を持つ男」、万能の天才(詩人、小説家、劇作家、画家等々)ジャン・コクトーによる映画『美女と野獣』です。ボーモン夫人による原作童話はディズニーによりアニメ化(最近では実写化も!)される程広く知られている話で、コクトーはこの原作の映画化にあたり監督、脚本を手掛けました。コクトー映画では、動き出したディアーヌの石像から放たれた弓矢によりハッピーエンドとを迎えます。この『美女と野獣』の撮影日誌は邦訳されて出版されています。

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(出典)商品名:美女と野獣[DVD]/販売元:ファーストトレーディング/発売日:2006/12/14

-ベルVS美子さん

『美女と野獣』の原題 は上記画像にあるように「ベル(ヒロイン名ですが、美女の意味もあります)とベト(野獣)」で韻を踏んでいます。邦題も「びじょ」の「じ」と「やじゅう」の「じ」で頑張って韻を踏んでいますね。そういえばカリーナ(イタリア語で可愛いという意味の形容詞)という芸名の女優さんも日本にいますね。美子さんという日本人女性のお名前も同じ文脈から名づけられているのでしょう。

-名カメラマン、アルカンが絶賛するコクトー絶妙の台詞

カメラは『天井桟敷の人々』(別名で参加)『ローマの休日』『ベルリン天使の詩』等の名手アンリ・アルカンで、コクトーの詩情溢れる世界をものの見事に映像化しています。前世紀末に大阪南港WTCで開催されていた「アンリ・アルカン展」を訪れた際に、会場キャプションで映画撮影時のこんなエピソードを目にしました。撮影ミスにより昼のシーンと夜のシーンを逆に撮ってしまうというトラブルが発生した際に、コクトーは慌てず騒がず、こんな風に野獣の台詞を付け加えたのだとその才をアルカンは大絶賛していました。野獣がベルに向かって言う「あなたの世界の昼は私の世界では夜なのです」との名台詞です。

 -ペテロの涙、三度目の否認

 ヴィルフランシュ・シュル・メール(ニースより列車で10分程です)いうコートダジュールの小さな港町をコクトーは好んでよく訪れていました。この町にあるシャペル・サンピエール(聖ペテロ礼拝堂 上から八つ目の写真)の現在の内外装はコクトーが手掛け、特に「聖ペテロの生涯」を描いている内壁一面は圧巻です。その中でも福音書やバッハの受難曲(十代の頃、「エバンゲリスト」という言葉をここから知りました)で有名な「ペテロの否認」のシーン(写真の左の部分)では、梯子の上の雄鶏、これが三度目と三本の指を立てているヴェール姿の女性といったコクトーワールドが全開で、思わずその前に立ち尽くしてしまいます。(この感動体験ばかりは現地まで足を運んで戴かなければ味わうことが出来ません。私が人生初めて購入したアート作品は、このシーンのリトグラフでした。お金と飾るスペースがある暮らしが出来れば、ペテロの生涯の全てのシーンをリトグラフでコレクションしたいです。) ご存知のように、漁師出身の聖ペテロは、漁業の守護聖人にもなっていて、この礼拝堂の観光収入は今でも地元の漁協に回されているそうです。ペテロの目は魚の形になっていますが、イクトゥス 、舟越保武へのマニアックなロンドは、あまりにも脱線のし過ぎになりますので、また別の機会に。

-サンテックス肖像の旧フランス・フラン 新札の想い出

私がこのヴィルフランシュ・シュル・メールを訪問したのは、未だユーロが導入されていない二十年程前のことでした。礼拝堂すぐ近くの土産物屋でコクトーグッズの買い物をしたら、お前はきっとサンテグジュペリも好きだろうと微笑みながら彼の肖像のフランス・フラン新札を釣り銭に入れてくれました。現在は統一通貨ユーロが導入され確かに便利になったのでしょうが、国境を越える毎に、出国通貨を出来るだけ使い切り、入国通貨の円換算への簡単な計算式を覚え直したりする儀式が必要だったユーロ導入以前も、それはそれで結構楽しいものがありました。 

-コクトーの鏡・ガラスはこの世とあの世の出入口「どこでもドア」?

ヴィルフランシュ・シュル・メールは、コクトー映画『オルフェ』のロケ地でもあり、「リュ・オプスキュール」という通り名を白いチョークで入口に手書きしてあるだけの文字通りの「薄暗い小路」(聖ペテロ礼拝堂と同じサイトの上から六つ目の写真)があります。(何しろ二十年程前のことですので、現在の状況は違っているかもしれません。立派な表示があったりして?)映画『オルフェ』の中に、この薄暗い通りを人生のメタファーとも言える大中小のガラスを背負ったガラス売りが「ガラスはいらんかい~」と叫んで売り歩いている印象的なシーンがあります。(40年位前に淀川長治のラジオ番組でこの言及があったように記憶しています。このラジオ番組からは映画のインプットを山ほどさせてもらいました。もしこの番組を聴いていなかったら、コクトー、ヴィスコンティ、レイ等の作品を観ることもなかったかもしれません。)

-次回へのロンドは実に渋い選択です 

次回は動く石像ロンドでモーツァルトの最高傑作オペラ『ドン・ジョヴァンニ』(更にその次は村上春樹の新作にロンドとか)か、コクトーに愛された男優ジャン・マレが演じる野獣のメイクはコクトーが来日時に観た菊五郎『鏡獅子』の影響というロンドで平櫛田中(小平の田中アトリエにご関心のある方がいらっしゃいましたら「アトリエ巡り」を企画致します。5/24~9/10には『田中彫刻記~平櫛田中107年の軌跡~展』が開催されますので、ご希望の方は、週末の美術館で大判タオル片手に汗だくの私を見つけてお申し付け下さい。)とも思いましたが、渋く「昼と夜」のロンドでトリュフォー映画『アメリカの夜』についてです。いつもこうして複数の選択肢があると実に楽なのですが、無謀なハードルを設定してしまったばかりに四苦八苦しています…

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この記事のライター

aloreライター春山博美
2008年に美術検定1級合格、2009年東京都美術館で開催された『美術館名品展』にてアートナビケーターとして初ボランティア参加。
その後、美術アカデミー&スクールが主催するART LABO等で研鑚を積みつつ、2015年に初代アート・エバンジェリスト認証を取得。週末は冬でも汗だくで専ら美術館・画廊を巡っている。
ガイド歴はDIC川村記念美術館、朝倉彫塑館等の個性ある美術館を好み、また「アトリエ巡り」として新宿落合地区での中村彝、佐伯祐三の西洋画アトリエ、川端龍子記念館での日本画アトリエ等の紹介を得意とする。
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